2024(令和6)年から贈与税が変わります。暦年課税は、贈与加算が相続開始前3年から段階的に7年に延長されます。精算課税贈与は、新たに毎年110万円までの非課税枠が設けられ、使い勝手がよくなります。
この改正を踏まえ、来年以降の精算課税の活用方法を検討します。
1.令和6年以降の暦年課税について
令和6年以降の暦年課税は、贈与加算が段階的に7年以内に延長されるため、相続直前の節税目的の贈与が難しくなります。贈与加算は、基礎控除110万円以下の部分も含めて贈与した財産を相続財産に取り込んで相続税を計算するので、該当してしまうと贈与による節税の効果は失われます。
ただし、贈与加算の対象となる方は、相続人、受遺者や死亡保険金の受取人など相続で財産を取得する人(以下「相続人等」といいます。)に限られます。相続人等は別として、相続人等以外の孫などへの贈与は、贈与加算の対象になりません。贈与加算のことは気にせず、これまでどおり暦年課税を使うことができます。しかも、暦年課税は、精算課税とは違い適用を受ける人の要件がありませんので、孫や子の配偶者など多くの人に贈与することが可能です。
2.精算課税の概要
・贈与者…60歳以上
・受贈者…18歳以上の推定相続人、孫
・特別控除額…累積2,500万円
・税率…特別控除額を超えた部分について一律20%
・贈与加算…2,500万円の特別控除額の枠内も含め、精算課税を利用して贈与した財産(贈与したときの評価額)をすべて相続財産に取り込んで相続税を 計算します。支払った贈与税は相続税から控除し、控除しきれない部分は相続税申告で還付を受けることができます。
・非課税枠…令和6年以降、累積2,500万円の特別控除額とは別に毎年110万円の非課税枠が設けられます。
・暦年課税と精算課税の選択は、贈与者ごとに行います。一度、精算課税を選択したらその選択をした贈与者から受ける贈与については、暦年課税に戻 ることができません。
3.令和6年以降の精算課税の活用方法
令和6年から新たに設けられる精算課税の110万円の非課税枠を活用する方法をご説明します。
(1) ご相続が近い場合
110万円の非課税枠の部分は、贈与加算の対象外です。つまり、精算課税を使えば、相続開始の直前であっても、年間110万円まで無税で贈与した上、相続財産から切り離すことが可能です。
ご相続が近い場合、相続人等に対する暦年課税は贈与加算の対象になるリスクが高いです。贈与加算を回避するため、精算課税を選択できる子などの推定相続人は、精算課税を選び年間110万円の非課税枠をきっちり使って相続税を減らすことができます。
(2) 贈与者が2人の場合
父A、母Bの2人が子Cに贈与するとします。暦年課税と精算課税の選択は、贈与者ごとに行います。令和6年以降は、A、Bの2人とも暦年課税または精算課税を選択するとCの非課税枠は110万円です。しかし、Aが精算課税、Bが暦年課税を選択すると、Cは精算課税の非課税枠110万円と暦年課税の基礎控除110万円の最大220万円まで1年間に無税で贈与を受けることができます。
Aに相続が発生すると、CはAから贈与(精算課税)を受けた財産を最大110万円×贈与年数だけ無税で承継できたということになります。
Bに相続が発生すると、Bからの贈与(暦年課税)のうち、贈与加算の期間を徒過したものは相続財産から切り離されます。仮に先にAに相続が発生したら、Bからの贈与について贈与加算を避けるため、暦年課税から精算課税に切り替えるのも一案です。
4.適切な選択を
精算課税は、贈与者と受贈者に一定の要件があります。また、一度に多額の贈与をしたい場合や、将来値上がりしそうな財産を移転するには使いやすい制度ですが、一度選択すると暦年課税に戻せません。そのため、相続財産はどのくらいあるか、110万円の非課税枠を超えて贈与をするか、相続により財産を取得する予定か等、色々な検討要素があります。
令和6年以降は2つの制度を併用することで、非課税枠が220万円まで拡充されます。次世代への財産の移転の促進のため、有効に使うことが大切です。それぞれの贈与制度について、特性を踏まえた上で使い分けることが必要と考えます。