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え〜っと通信

279号

2024年7月18日

小松 進

税務署の調査結果に不服あり!~不服申立制度のご紹介~

 7月から12月は税務調査が多く行われる時期です。
 税務署が調査した結果、申告内容に誤りがあるとの指摘や重加算税がかかると説明を受けたが、納得できずに不服がある。そんなときの救済制度に関し、私が国税局・税務署・審判所に勤務していた際の経験を交えてご紹介します。

1.税務調査終了の際の手続き

 税務調査終了の際は、調査官から調査結果の内容説明として、申告誤り等の金額とその理由などの口頭説明を受け、修正申告(期限後申告)を勧奨されます。
 修正申告の勧奨に応ずるかは、任意の選択となりますが、修正申告に応じなかった場合は調査結果に基づき更正等の処分をされます。
 なお、修正申告に応じなかったからといって、修正申告に応じた場合と比較して不利な取扱いを受けることは基本的にありません。

2.不服申立制度

 税務署長等が行った更正等の処分に不服があるときは、その処分の取消し等を求める不服申立てをすることができます。
 不服申立ては、税務署長に対する「再調査の請求」と国税不服審判所長に対する「審査請求」の選択制となっています。そして、国税不服審判所長の裁決を受けた後、なお処分に不服があるときは、裁判所に「訴訟」を起こすことができます。
 私は、再調査の請求は処分した者と審査する者が同じ税務署長なので、あまり意味がないと思います。以下は、審査請求についてご説明します。

3.審査請求できる処分は?

 審査請求できるのは、更正や決定のほか、更正請求に対する更正すべき理由のない通知、重加算税の賦課決定など、税務署長が行った不利益処分が対象です。
 ところで、調査官の勧奨に応じて修正申告した場合は、税務署長は更正等の不利益処分をしないので、審査請求できなくなります。調査結果の内容説明に納得できないときには、修正申告するか慎重に検討してください。また、調査結果の内容説明の理由が不明確だというときは、更正等では理由付記が義務付けられていますので、書面で処分の理由等を確認することができます。更正通知書の理由付記をみてから、審査請求するか決めるのも一計です。
 基本的には、処分の理由等に誤りがあれば審査請求が認められることになります。例えば、調査官の言葉遣いや態度に対する不満は、お気持ちは分かるのですが、審査請求の場面ではいわゆる苦情として取り扱われてしまいますので、請求理由にはなりません。

4.審査請求にかかる費用や期間は?

 基本的に審査請求をするために国税不服審判所に支払う費用はありません 。
 国税不服審判所では、通常要すべき標準的な期間を 1 年と定めています。この間に裁決書という書面で判断結果が郵送されてきます。

5.どんな人が判断しているのか?

 通常は担当審判官1名、参加審判官2名の合議体というものが構成され、他に調査に従事する職員が担当者として指定されます。
 審判所は国税庁の特別機関ですが、より公正な立場から判断ができるよう、原則として、3名の審判官のうち最低1名は弁護士・税理士又は公認会計士などの民間専門家から登用された者が配置されています。

6.実際に認められた割合は?

 刑事事件の有罪率は99.9%といわれていますが、税務署長の処分に関する審査請求の処理状況はどうでしょうか。
 税務署長の処分の全部又は一部がダメと判断されたものは、下表の「認容」欄になりますので、1割前後の審査請求が認められたということになります。刑事事件と比べれば、審査請求が認められる割合はグンと高くなっています。

                   (単位:件、%)

区分取下却下棄却認容
令和3年度
(構成比)
321
(14.1)
98
(4.3)
1566
(68.6)
297
(13.0)
令和4年度
(構成比)
286
(9.1)
385
(12.2)
2263
(71.6)
225
(7.1)
                          

7.税務署側の処分に当たって

 税務署は税金を集める役所ですから、不利益処分の適正性が担保されていなければ、信頼できる組織とはいえないでしょう。そのような意味で、税務署は安易に審査請求の対象となる不利益処分ができません。更正見込み案件は、修正申告見込み案件よりも多くの職員が関与して慎重に検討されますので、調査担当者が意見を通すハードルは相当高くなります。

8.まとめ

 不服申立制度をご紹介しましたが、決して積極的に活用をお勧めする訳ではありません。税務署の調査結果に納得がいかないときは、信頼できる税理士とよく相談していただき、早めに調査官にご自身の考えを伝えることが大事です。不服申立制度は、1つのツールとしてご活用いただければ幸いです。

※執筆時点の法令に基づいております