生命保険は、万一の際にまとまった金額の保険金を受け取れることはもちろん、税金面では相続税の非課税枠を利用することで節税対策になり、相続税の納税資金の確保に役立ちます。
そんな目的で加入した生命保険ですが、相続税の対象として必ずしも思いどおりになるとは限りません。この機会にあなたの契約した生命保険の内容をチェックしてみてはいかがでしょうか。
1.被保険者、保険料負担者、受取人の関係によって変わる税金の種類
死亡保険金を受け取った場合は、①被保険者、②保険料の負担者、③保険金の受取人が誰かにより、相続税、贈与税、所得税のいずれかの対象になります。

(1) 相続税は、上記の表のように被保険者と保険料負担者が同一の場合です。
(2) 贈与税は、被保険者、保険料負担者、保険金の受取人がすべて異なる場合です。
(3) 所得税(一時所得又は雑所得)は、保険料負担者と保険金の受取人が同一の場合です。
2.相続税の死亡保険金の非課税
被相続人が保険料を支払っていた死亡保険金は、相続税法上のみなし相続財産となり、受取人固有の財産として遺産分割の対象にはなりません。「相続人が受取人のとき」は法定相続人1人当たり500万円の非課税枠があります。たとえば、法定相続人が3人の場合は、1,500万円まで死亡保険金を無税で受け取れるということになります。
注意していただきたいのは、相続人以外の人が受取人の場合は非課税の適用がないということです。さらに、相続税額の2割加算という制度があるので、割増の相続税を支払うことになってしまいます。
3.契約上の受取人を変更したときの税金
税金のことを考えると、生命保険の受取人を名義変更する方が良い場合もあるでしょう。変更する場合は贈与税がかかってしまうのでしょうか?
生命保険の契約者や受取人の名義変更をしただけでは贈与税を課税されません。贈与税が課税されるのは、被保険者の死亡や保険期間の満期により、保険料を負担していない人が生命保険金を受け取った場合等に限られます。
4.相続後でも受取人は変更できる?
夫が独身時代に加入した生命保険、結婚後も親を受取人とし、受取人を妻子に変更するのを忘れたまま相続が発生したとします。親が「残された妻子が受け取るべき」として保険金をそのまま妻子に渡しました。この場合はどのようになるのでしょうか?
相続税法の規定からみれば、死亡保険金が親に支払われた時点で親に相続税、さらに親から妻子に死亡保険金を渡した時点で贈与税という二重の税金がかかってしまいます。しかも、親は相続人ではないので相続税の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を使えません。
しかし、実務上は、相続税の通達で、受取人の名義変更がされていなかったことに「やむを得ない事情があり、現実に保険金を取得した者がその保険金を取得することに相当な理由があるとき」は契約上の名義人ではなく実際に受け取った人を受取人として認めるとする取り扱いがあります。したがって、この救済策が認められれば、妻子が死亡保険金を相続により取得したものとみなして相続税の非課税枠をしっかり使うことができます。
5.まとめ
上記4の相続税の救済策は、建前として「やむを得ない事情」があるとき限り適用されるものですから、受取人を便宜上指定したにすぎず、うっかり手続きを失念していたといえるようなとき以外でも認められるかどうかは微妙なところです。
相続後に受取人を変更できるのは、契約上の受取人が同意しているなど、関係者の合意が必要です。親子仲が悪かったり、離婚した妻から現在の妻に名義変更し忘れていたときなどは相続後に受取人を変更するのが難しいケースといえます。
そもそも生命保険金は、あらかじめ指定した「死亡保険金受取人」に必ず支払われますから、遺したい人に確実に遺すことができるものです。無用な親族間のトラブルを避けるためにも、生命保険加入後の環境の変化に合わせて定期的なチェックと必要な名義変更を忘れずに行う必要があるといえます。