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~毎年相続税の概算申告!?~
174号

え〜っと通信

174号

2015年10月15日

東 真也

こんなに大変!「財産債務調書」の提出制度
~毎年相続税の概算申告!?~

 平成27年度税制改正において、所得税・相続税の申告の適正性を確保する観点から、これまでの「財産債務明細書」が見直されました。
 一定の要件を満たす方は、その保有する財産及び債務の全てを調書として提出する「財産債務調書」制度が創設されました。今回は、この新たな調書の提出基準、これまでの制度との変更点についてまとめてみました。


1.「財産債務明細書」から「財産債務調書」へ

 「財産債務明細書」を提出されたご経験がある方も多いのではないでしょうか。所得税の確定申告で所得金額が2,000万円を超えると、財産と債務の内容を明細書にまとめ提出する必要があります。しかしこの制度、提出基準を満たす方のなんと6割の方は提出していなかったようです。
 提出しないと税務署から督促の書面が送付されます。督促により提出がなされたとしても、財産の内容も大まかで、金額も概算によるものが多かったようです。そのため、制度の目的である申告内容の検証としては、ほとんど機能していなかったといわれています。このような背景もあり、この度、「財産債務明細書」から「財産債務調書」へ格上げされることになったのです。調書とは、特定の事象について調査内容を記載した文書のことですから、「財産債務調書」は、自ら財産や債務を調べ、国に報告する義務を負わせようとする制度といえるのかもしれません。


2.提出義務者に関する要件

 この制度、前述の「財産債務明細書」と比べてどこが変わったのでしょうか。まずは、提出基準です。提出基準は緩くなっています。これまでの(1)「確定申告書の所得金額2,000万円超」に加え、(2)「保有する財産の時価が3億円以上、又は保有する有価証券等の時価が1億円以上」という基準が新たに加わりました。(1)の基準については確定申告書の内容で明らかになります。しかし、(2)の基準は、高額の不動産、有価証券などを売却した場合、直近に税務調査がなされ財産内容が把握された場合、また、税務署の資料情報などで財産内容が明らかとなっている場合などを除き、この(2)の提出基準を満たすかどうか直接的には分かりません。したがって、提出基準を満たす方が提出していなくても、「あなたは提出義務がありますが提出されていません」などという直接的な督促文書が送られてくる可能性は低いと思われます。
 しかし、財産債務調書に記載すべき財産に係る所得に申告漏れがあり、次のいずれかに該当する場合には、追徴税額の10%相当の過少申告加算税が15%相当に加重される措置が設けられている点には注意が必要です。
1.提出義務がある方が提出期限内(翌年3月15日まで)に提出していない場合。
2.提出期限内に提出はしていても本来記載すべき財産や債務の記載がない場合。


3.財産債務調書の記載内容は・・・・

 一番の問題点は、記載方法が詳細になったことです。例えば、事業用資産の場合、青色申告決算書の貸借対照表に金額の記載があれば、「財産債務の明細書」では、個々の資産ごとの記載を簡略でき、その金額も貸借対照表の数値を基礎としたもので足りることとされていました。
 しかし、「財産債務調書」では、このような簡略記載は一切認められません。財産については、土地建物をはじめ預貯金、貸付金、有価証券(有価証券については取得価額の記載も必要)、貴金属類など、また、債務については借入金、未払金などと、あらゆる資産負債について、用途別(一般用・事業用)・種類別に、所在地・数量・面積及び価額(その年の12月31日時点の時価)を記載することになるのです。


4.国外財産調書との関係は?

 平成24年度の税制改正で「国外財産調書」制度が設けられたことはご存知の方も多いかと思われます。この制度は、その年の12月31日において、時価5,000万円を超える国外財産をお持ちの方は、確定申告期限(翌年3月15日まで)に、国外財産の内容と金額を個別に記載させるものです。「財産債務調書」の財産の記載方法は、この「国外財産調書」と基本的に同じです。両者の提出基準に該当すると、いずれも提出する必要があります。
 「財産債務調書」は、国内財産に限られたものではないですから、本来であれば国外財産についても記載する必要があります。しかし、重複記載になるため、「財産債務調書」では、国外財産について個々に記載する必要はなく、「国外財産調書に記載した国外財産の価額の合計額」を記載すれば足りることとされています。


5.最後に・・・・

 来年3月の平成27年分の確定申告書の提出に合わせて、「財産債務調書」の提出が始まります。提出義務のある方は、税額計算までは行わないものの、生前に自らの手で事実上「相続税の概算申告書」を作成し提出することと実質的には同じといえます。
 不提出に対する罰則規定は設けられていません。しかし、提出すべき方が提出していないと、税務調査の対象になる可能性も否定できません。これまでの申告内容や税務署が把握している情報から、不提出であることが選定理由の一つとなり得るからです。「財産債務調書」制度は、これから始まるマイナンバー制度との連携により、個人の資産情報の名寄せを調書として法定化するものと考えられます。したがって、富裕層への課税強化・徴税強化を狙ったものといえるのではないでしょうか。

※執筆時点の法令に基づいております