秋の行楽シーズンを迎え、車でお出かけになる機会も増えるかと思いますが、くれぐれも、“もらい事故”には気をつけたいものです。昨今は飲酒による危険運転についても世間の厳しい目が光っていますが、残念ながら交通事故は根絶されていません。
今回は、交通事故などに巻き込まれたことにより被害者となってしまった場合に、受取る損害賠償金などへの課税関係について考えてみたいと思います。
1.受取るのは被害者?それとも遺族?
万が一、交通事故などに巻き込まれそれが原因で死亡した場合、亡くなった被害者(被相続人)や、その遺族(相続人)に対し損害賠償金が支払われることがあります。被害者が受取る場合には相続税の、遺族が受取る場合には所得税の対象となります。亡くなっても、はたまた幸いに命拾いをしても税金がかかる仕組みになっているのです。
次にその詳細を見ていきましょう。
2. 被害者が受取る損害賠償金(a)への課税関係
交通事故などで被害者が加害者から損害賠償金を受取る場合、受取る時期の違いによって次の3つのケースに区分することができます。
① 受取ってから死亡
② 受取ることが確定していたが、受取る前に死亡。後日遺族が受取り
③ 死亡後に受取ることが確定。後日遺族が受取り
上記、①のケースでは被害者が現預金で受取った損害賠償金が相続開始時に手許に残っていればその現預金が相続財産となり、その現預金が他の財産に形を変えていればその財産が相続財産となります。しかし、相続開始時に使い切って手許になければ相続財産とはなりません。相続開始時に被害者の手許に財産が残って いれば、それをどなたが相続するか遺産分割協議書に記載することになります。
②③のケースでは、まだ受取っていない損害賠償金を請求できる権利(損害賠償請求権)が債権として相続財産となります。こちらのケースもその債権をどなたが相続するか遺産分割協議書に記載することになります。
①の場合、受取った現預金等が相続開始時に手許にあれば、その現金化した損害賠償金に相続税が課税されます。
しかし、②③の場合については、損害賠償請求権は相続財産となりますが、別途、下記の個別通達により相続税の計算上、課税価格に算入しないものとする取扱いがあるため、相続税は課税されません。
[個別通達]昭57.5.17:直資2-178
被相続人について不法行為による生命侵害があった場合において、その遺族がその生命侵害にもとづいて受ける損害賠償金は、相続税の課税価格に算入しないものとする。
3. 遺族が受取る損害賠償金(b)への課税関係
残された遺族に対しては、心身に傷を負ったことに対して損害賠償金が支払われる場合があります。では遺族が受取った損害賠償金に対して、どんな課税がされるのでしょうか。
不動産所得など営利を目的とする継続行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務などの性質を有しないものについては、一時所得として所得税が課税されます。
交通事故などで遺族が加害者から支払を受ける損害賠償金については、この一時所得に該当します。
しかし、所得税法では、心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金については、所得税を課さない(非課税所得)と規定しているため、遺族が受取った損害賠償金について所得税が課税されることはありません。
われわれが一所懸命働いて稼いだ所得や築いた財産に対し税金が課税されても、すべてをもっていかれることはありません。所詮はお金で解決できる問題です。しかし不慮の事故ではそれこそ人生のすべてを一瞬にして奪い去ってしまうものです。仕事柄、税務調査の怖さは十分に理解しているつもりです。しかし、不慮の事故の恐ろしさはその比ではないことを肝に銘じておきたいと思っています。