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~「生計を一」にしていた者とは?~
121号

え〜っと通信

121号

2011年6月15日

二見 和美

死亡保険金の相続税非課税枠に制限
~「生計を一」にしていた者とは?~

 平成23年度税制改正で突如浮上した、死亡保険金に係る相続税の非課税枠の制限。500万円×法定相続人の数、というあまりにも馴染み深いこの非課税枠に、法定相続人の状況に応じた制限が加わる予定です。該当者として数える法定相続人は、未成年者、障害者、そして相続開始直前に被相続人と「生計を一」にしていた者に限るというのが改正の内容です。未成年者や障害者は判断に迷う余地はありませんが、「生計を一」については、少し慎重に判断をしなければならない場合もでてきます。


1.改正の背景とその影響

 「相続人の生活の安定」という制度趣旨の徹底の必要性と、他の金融商品との課税の中立性確保の要請を踏まえて、というのが改正の背景にあります。預金では金額どおり課税されてしまうため、相続税対策のために非課税枠を目安に保険料とほぼ同額の死亡保障が得られる一時払いの保険を契約するというのは実際によく行われていました。
 この改正は基礎控除額の縮小と同様に影響が大きく、以下の【例】の場合には、課税財産の価額に1,000万円もの差が出ます。

【例】
被相続人(会社役員) 妻(同居) 長男(別居・既婚・会社員) 長女(別居・既婚・専業主婦) 二男(同居・会社員) (相続人全員が障害者でない・死亡保険金2000万円)
 改正前非課税枠:500万円×4人=2,000万円
 改正後非課税枠:500万円×2人(妻と二男)=1,000万円
被相続人の住まいとは別の場所に住み、自身で生計を立てている長男や長女が被相続人と「生計を一」に該当しないことは明らかです。しかし、仮にこのケースで、被相続人と長男の住まいがいわゆる二世帯住宅だったら・・・、被相続人が老人ホームに入居していたら・・・・、「生計を一」についてその実態を考えなければなりません。


2.「生計を一」の定義

 そもそも「生計を一」ということについて、法律上の定義はありません。しかし、税務署職員に対する法律解釈として公表されている「基本通達」に定義があります。「生計を一」とは必ずしも扶養を伴うことではなく、国税通則法の通達には「納税者と有無相助けて日常生活の資を共通にしていること」との記載があります。一つの生活共同体として、日常生活の財布は共通、と考えればわかりやすいでしょう。更に、所得税法の基本通達における定義の詳細は、次のようなものです。

 法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。

(1)勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
(2)親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

 原則として一つ屋根の下に暮らす家族は生計一と考えてよく、事情により別居していても、実態に応じて生計は一ということを明記しています。逆に、一つ屋根の下に暮らしていても客観的に全くの独立した生活を営んでいると認められれば、生計は一でないとも言っています。現在のところ、相続税にはこうした定義がありませんし、今後、新たに明示されるかは不明ですが、この考え方と大きく異なるとは考えにくいでしょう。


3.争いも多い「生計を一」の個別性

   所得税では、控除対象配偶者、扶養親族等のほか、親族が事業から受ける対価、医療費控除、社会保険料控除等で「生計を一」という言葉が使われています。相続税では、小規模宅地等の評価減の要件、そして新たにこの死亡保険金の非課税対象者に登場します。
 特に所得税では、「生計を一」の親族の事業から受ける対価はその事業の必要経費にならないということについて、多くの争いがあります。これに関する判例の中に「生計を一」の判断基準として次のようなものがあります。

【納税者の主張】
義父母とは同一家屋に居住しているが住民票が別世帯で、それぞれが別の収入を得て納税を行っており、内部では家事費の精算を行っていたから生計は別。
【判決】
同一家屋に居住し、玄関、台所、風呂等を共用、居住部分の敷地の地代の支払いなし、電気等メーターが別々に設置されておらず、生活費が明確に区分されていない、として生計一と判断。

 申告の実務上ではこうした裁判例等を基に、個々の事情に照らして判断を行います。相続税の場合には「生計を一」であれば問題がないわけですから、同居しているのにわざわざ特別な事情を作って生計が別、とこちらから主張して争うことはないと思われます。ただし、客観的な実態がそうではないとなると話は別で、これまでは機械的に計算できた非課税枠ですが、今後はケースバイケースということが増えてくるかもしれません。

 本文中の改正予定は、平成22年12月16日に発表された平成23年度税制改正大綱に
 基づいております。
 平成23年度税制改正法案については、平成23年6月10日現在 成立しておりません。

※執筆時点の法令に基づいております