昨年は大型台風の度重なる上陸、大地震の発生、浅間山の噴火、クマの出没など様々な災害に見舞われる年になりましたが、昨年を振り返り不幸にも災害などに遭われた方に、税務上の救済措置をご紹介致します。
1. 税額の軽減措置
救済措置のうち、税額が少なくするなる制度として、所得税法による雑損控除(以下「雑損控除」)と災害減免法(以下「災免法」)による所得税額の減免があります。雑損控除が”所得の一部を控除できる制度”であるのに対し、災免法は”税額の免除又は一部を軽減できる制度”となります。
2. 適用要件
この2つの制度は対象資産、適用される原因の範囲も若干異なります。雑損控除については、住宅、家財、動産(うち、後記の生活に通常必要でない資産とされるものを除きます)、1個又は1組の価額が30万円以下の貴金属等が対象となり、損失の原因が災害、盗難、横領による場合に適用されます。これに対し災免法の場合は、住宅、家財のみが対象であり、損失の原因も災害のみに限定されます。また、損害の規模要件もあり、住宅、家財の価額の1/2以上の損害であることが必要です。また、雑損控除の適用にあたり間違いやすい点として以下2点があります。
① | 対象資産が、事業用資産やクルーザー・別荘、1個又は1組の価額が30万円超の貴金属等及び生活に通常必要でない資産に該当する場合 |
② | 詐欺・恐喝を原因とする損害(自己の意思が介在している場合) には適用がありません。 |
3. 計算方法
◆災免法の場合
一定の所得金額の場合には、税額が直接に減額または免除されます。
今年の合計所得金額 | 所得税の軽減額 |
500万円以下 | 全額免除 |
500万円超750万円以下 | 50%相当額が軽減 |
750万円超1,000万円以下 | 25%相当額が軽減 |
1,000万円超 | 軽減なし |
◆雑損控除の場合
次のうち、いずれか多い方の金額を所得(税額ではありません)から差し引くことができます。
(イ) 損失の額(*)- 所得金額の1/10
(ロ) 損失の額(*)のうち災害関連支出の金額 - 5万円
(*)損失の額は保険金などによって補填される金額を除きます。
(参考)上記の適用には、災免法の場合には確定申告書に明細添付、雑損控除の災害関連支出がある場合には領収書の添付又は提示が必要です。雑損控除の場合、所得から控除できなかった金額は翌年以後3年間繰越して控除することができます。災免法の場合には源泉所得税の早期還付を受けることも可能です(一定の所得要件があります)。
4. どちらが有利?
実際に数字を使って試算してみましょう。
合計所得金額800万円(所得控除150万円(雑損控除以外))の方の場合、損失額に応じて以下のように所得税額が減少します(定率減税は考慮せず)。
損失額 (全て災害等の損失額とします) | 雑損控除適用後の所得税額 | 災免法適用後の所得税額 |
なし | 97万円(注1) | |
100万円 | 93万円(注2) | 72.75万円(注5) |
200万円 | 73万円(注3) | 72.75万円(注5) |
300万円 | 53万円(注4) | 72.75万円(注5) |
(注1) 650*×20%-33=97
(注2) {650*-(100-80)}×20%-33=93
(注3) {650*-(200-80)}×20%-33=73
(注4) {650*-(300-80)}×20%-33=53
(注5) 97-97×25%=72.75
* 雑損控除以外の所得控除後の所得金額650(800-150)
上記のケースでは損失額が200万円の場合には災免法適用が有利、300万円の場合には雑損控除適用が有利となります(比較ができるのはその年の合計所得金額が1000万円以下の場合に限られます)。
5. 実務上の損失額
上記はあくまで机上の計算です。というのは実務上損失の金額は何を基に計算し、かつそれらを立証できる資料が災害後に残っているのでしょうか?もともと1の損害を100といってしまうことだってできそうです。保険の世界に”焼け太り””保険太り”という言葉がありますが、税金の世界にもある”焼け太り”制度なのかもしれません。