相続が発生すると真っ先に心配になるのは「相続税」。ですが、「消費税」も侮れません。
相続で事業を承継した場合、亡くなった方の生前の消費税の対象となる金額(以下、「課税売上高」といいます。)により、これまで消費税とは無縁だった相続人にも消費税の納税義務が生じることがあります。
1.納税義務判定の原則
個人事業主で消費税の納税義務がある方(以下、「課税事業者」といいます。)は、原則的には次の方です。
(1)前々年(以下、「基準期間」といいます。)の課税売上高 > 1,000万円
(2)前年の1~6月の課税売上高 > 1,000万円
2.相続があった場合の納税義務の判定
消費税の納税義務が無い(以下、「免税」といいます。)相続人(事業を行っていない者も含みます。)が事業を引き継いだ場合には、相続人本人の課税売上高だけではなく、被相続人の課税売上高も含めたところにより判定することになります。
(1)相続発生年 被相続人の基準期間の課税売上高 > 1,000万円
(2)翌年・翌々年 被相続人の基準期間の課税売上高+相続人の基準期間の課税売上高 > 1,000万円
尚、相続発生年に(1)により課税事業者となるのは、相続発生日の翌日~その年12月31日の期間のみです。
また、もともと課税事業者である相続人は、上記(1)の基準により、相続人の課税売上高のみで判定します。
3.相続人が複数いる場合
複数の相続人がそれぞれ事業の一部を承継する場合には、上記2の判定が少し複雑なものになります。
2.(1)(2)の被相続人の基準期間の課税売上高に各相続人の事業承継割合を乗じて計算します。(遺産分割が確定するまでの期間は、その割合を法定相続分とします。)
4.簡易課税制度の適用
相続による事業承継で消費税の課税事業者となった場合、被相続人が簡易課税制度を選択していた場合でも、相続人がその制度を自動的に引き継ぐことはできません。
次の場合のみ、相続発生年の12月31日迄に簡易課税制度選択届出書を提出することによって適用が認められます。
(1) 相続人が相続により新たに事業を開始した場合
(2)免税事業者であった相続人が課税事業者になった場合で、被相続人が簡易課税制度の適用を受けていた場合
簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合に選択できる制度ですが、納税義務の判定と異なり、こちらは相続人の課税売上高のみで判定します。
5.ケーススタディ
平成25年に相続が発生した場合について、相続発生年とその翌年の納税義務について検討してみましょう。
【ケース1】A=1/2 B=1/4 C=1/4 の割合で事業承継
(1)H25年 相続発生年 ( H23の課税売上高で判定 )
A 相続前 500万円≦1,000万円∴免税
相続後 3,000×1/2=1,500万円>1,000万円∴課税
B 相続前 0万円≦1,000万円∴免税
相続後 3,000×1/4=750万円≦1,000万円∴免税
(2)H26年 翌年 ( H24の課税売上高で判定 )
A 3,000×1/2+500=2,000万円>1,000万円∴課税
B 3,000×1/4+0=750万円≦1,000万円∴免税
【ケース2】A=1/4 B=1/2 C=1/4 の割合で事業承継
(1)H25年 相続発生年 ( H23の課税売上高で判定 )
A 相続前 500万円≦1,000万円∴免税
相続後 3,000×1/4=750万円≦1,000万円∴免税
B 相続前 0万円≦1,000万円∴免税
相続後 3,000×1/2=1,500万円>1,000万円∴課税
(2)H26年 翌年 ( H24の課税売上高で判定 )
A 3,000×1/4+500=1,250万円>1,000万円∴課税
B 3,000×1/2+0=1,500万円>1,000万円∴課税
※Cは本人の課税売上高により相続前・後とも課税事業者
※A・Bは平成25年から簡易課税制度を選択できます。
6.消費税負担も視野に入れた分割を
上記5の2つのケースを比較しますと、被相続人から引き継ぐ事業の規模により、相続人A・Bの納税義務の有無に違いが生じることが分かります。
「消費税なんて面倒、この先も免税事業者でいたい。」と思われる方は、大きな課税売上高が生じる事業を引き継ぐのは避けた方が良いでしょう。また、売却を前提に賃貸物件を相続するような場合も注意が必要です。課税事業者は、売却収入も消費税の課税対象となるからです。
唯でさえ何かと厄介な遺産分割。そこにこのような複雑な消費税の事情が絡むと、もう何が何だか…
でもご安心下さい。相続税は勿論のこと、その先の消費税負担も考慮して、私ども”ATO”が万全のサポートをさせて頂きます!