相続に際して、その相続した土地を物納しようとお考えになっている方もいらっしゃると思います。今回は物納の際の収納価額(国が引き取ってくれる価額)にまつわる、思わぬ落とし穴についてお話します。
通常、相続財産を物納しようとした場合、物納財産の収納価額は、相続税の申告書に記載された価額によることとされています。つまり、相続税を計算する際に1億円で評価された土地ならば、収納価額も1億円。税金を納める側の立場からすれば、これは当然なお話です。
ところがその土地の利用状況によっては、1億円で評価されているにもかかわらず、収納価額はその半分の金額にもならず、いざ物納を申請しようというときに大慌て…というケースもあります。そんな事にならない様、物納予定の土地については事前に利用状況を確認されておくことをおすすめします。
よくあるケースとして、以下の2つのケースをご紹介します。
① | 使用貸借に係る土地 父親から使用貸借した土地にアパートを建てて賃貸をしていたAさんが、父の死亡に伴いその土地を相続により取得。この土地を物納しようと考えているケース。 |
② | 土地の無償返還の届出が出されている土地 身内の経営する会社に貸与している土地(※)をBさんが相続により取得したため、その土地を物納しようと考えているケース。 上記の2つです。 |
①の場合、相続税を計算する際には、自用地(更地)として評価されます。しかし、国がその土地を物納により収納する場合の収納価額は、自用地としての価額ではありません。借地権の価額に相当する額を差し引いた底地としての価額となります。本人以外の人物(Aさん)所有のアパートが建っている土地を国が引き取る訳ですから、物納後のその土地の権利関係は、「Aさんが国から土地を借りている」ことになります。
そのため、相続発生前の使用貸借とは状況が異なってしまうから、というのがその理由です。借地権割合が60%の土地においては、1億円で評価されていても4千万円でしか収納されないということになります。
②の場合、土地の無償返還届出書が出されているため、相続税を計算する際には自用地(更地)としての価額の80%相当額として評価される分、①よりお得といえますが、収納価額は①と同様です。つまり、8千万円で評価されていても(自用地評価1億円とする)4千万円でしか収納されません。
ただし、上記のケースは物納時においても土地の上に他人の建物が建っている場合のお話です。物納時に建物を取り壊してしまった場合は、原則として収納価額は自用地(更地)評価額となりますので、老朽化した建物ならば思い切って取り壊すのも有効な一手段かもしれません。申告時には低い評価で得をして、物納時には高い収納額でもう一度得をする。こんな作戦をお試しになってはいかがでしょう。
(※)税務署に土地の無償返還に関する提出書を提出済。
<用語の解説>
「土地の無償返還に関する届出書」とは、将来借地人がその借りている土地を無償で返還することを約束した際に、税務署に提出する届出書をいいます。(一方又は双方の当事者が法人であることが前提です。)本来、権利金等(借地権の対価)の授受を行う慣行のある地域では、建物を所有する目的をもって賃貸借契約を行うときに、権利金の授受が行われるのが一般的です。地主にとっては、借地人がその土地を使用することによって、利用を制限されることになります。従って、その利用を制限されるのに見合う金額の権利金を地主は借地人から受け取るという訳です。もし、借地権の設定が無償で行われた場合、税務当局は、地主が借地人に対して借地権に相当する権利金の支払いを免除した、と解釈します。そして、借地人に権利金相当額の課税が行われてしまいます。(これを権利金の認定課税といいます。)この権利金の認定を受けないための方法の一つが、契約書において当事者間で将来無償で借地を返還する旨を定め、税務当局に「土地の無償返還に関する届出書」を提出する事なのです。