不動産から生じる所得は誰のものであり、誰が申告をするのでしょうか。家族間において良くありがちな話として、不動産の所有者以外の人の所得として申告をしたいという方もいるようですが、問題はないのでしょうか。
1.実質所得者課税のルール
所得税法では、所得の帰属について次のような取り扱いを定めています。 「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属する」
そして、収益を享受する人は誰であるべきか、少なくとも資産から生じる収益は誰のものであるかは、実務上次のように取り扱われます。
したがって、不動産所得は資産の権利者である所有者が申告を行うのが基本的なルールとなります。
2.共有の場合
A及びBの2名で共有しているような不動産は、各人が持分割合に応じた申告をすることになります。
全部をAだけやBだけのものとして申告することはできません。また、共有は区分所有とは異なりますので、アパートの1号室はAのもの2号室はBのものというように部屋ごとに分けて申告することはできません。しばしば、共有であるのに部屋ごとに申告している方が見受けられますがこれは間違った申告です。
3.所有者以外の所得とできるか
親が所有する土地を月極駐車場として利用する場合を考えてみましょう。駐車場の契約者を子にした場合には、駐車場収入は子に帰属することになるのでしょうか。
結論としては、管理人などが常駐しているような事業実態がある駐車場などでもない限り、子の収入とすることはできません。資産の所有者である親が申告すべきことになります。
なお、子は親所有の土地を借りて駐車場運営しているのだと述べたとしても、所得税の考え方では単純に子の収入にさせることはできません。また、このケースでは土地の貸借は使用貸借なのか賃貸借なのかが本質ではありません。
子の所得と認めてもらうには、子自身がある程度の資産設備(例えば立体駐車場など)を所有することにより資産から生ずる収益とするか、何らかの付加価値がある事業を行っていることによる収益とする必要があるでしょう。
4.贈与税などにも注意
いままで説明をしてきたように、不動産から生じる所得をその契約者を形式的に変更することにより所有者以外の人のものにすることはできません。この場合、一次的には所有者に帰属した所得を、二次的に所有者以外の人に分配しているものとして金額によっては贈与税の課税問題が生じる可能性もあるでしょう。
また、不動産を賃貸借契約にて貸し付けていたとしても、それが単なる転貸借に準じたようなものであれば、その実態は不動産管理に過ぎないとして、管理料相当以上の所得は賃借人には移転しないと見られる可能性もあります。
5.資産を所有して所得移転
このように不動産所得を移転するためには資産の所有がポイントとなります。
したがって、マンション・アパートなどであれば建物そのものを売買や贈与によって移転する必要があります。その際、土地を移転する必要はないのでしょうか。
賃貸建物から生じる収益は建物から生じるものですから、賃貸収入の移転だけを考えれば建物だけの移転で実際は問題ありません。ただし、移転後の土地所有者と建物所有者が異なる結果となるため、借地権の問題が生じないよう親子などの個人間であれば土地は使用貸借とするのが一般的でしょう。
なお、建物所有者が土地を無償利用した場合には、理論的には地代相当の利益を得ているとして贈与税の問題が生じるという考え方もあります。ただし、実務上は贈与税の課税は行われないのが実情です。
6.所得税だけの問題ではない
このように、不動産所得の帰属を変更するために資産を移転する場合には所得税だけではなく、相続税や贈与税の取り扱いも理解しておく必要があります。
また、不動産を法人に移転する場合には、法人税の取り扱いを知る必要があります。
このように税法はひとつの側面からではなく多面的に考えることが大事なのです。