自分が相続や贈与で貰った財産について相続税や贈与税を払うことは当然ですが、何と他人の税金を払わないといけない場合があります。
相続税や贈与税に存在するこの特異な制度、これを連帯納付義務といいます。今回はそんな怖い制度についてのお話です。
1.ある相続のケース
不幸にして、あなたの兄が亡くなりました。
兄は独身で両親は既に他界。相続人はあなたと弟。
弟は後継ぎとして不動産を中心に、あなたは上場株式を主に相続しました。弟には金融資産の手持ちが殆どなく、あなたもそれほど裕福では有りません。
あなたは株の売却で何とか納税を済ませました。
4年後、相続のことなど忘却の彼方になろうとしていたある日、あなたのもとに税務署から書類が届きます。
読むと、弟が相続税を滞納しているとの内容。
それから更に税務署から書類が届きます。
今度は何と、弟が払うべき相続税をあなたが払えという内容。
しかも相続税に留まらず、4年分の利子税も含めて…。
弟に文句を言いたい気持ちはさておき、泣く泣く納税に応じることとなりました。
2.愛人に財産を渡したケース
ある中小企業の社長には家族がありましたが、家の外に愛人を囲っていて、マンションを買い与えていたご様子。将来の相続を気にしてか、名義は愛人です。
だが、そんな蜜月関係にもいつかは別れが来るもの。マンションは男らしく諦め、関係を清算しました。
それから暫く経ったある日のこと。税務署がマンションの贈与に気づき、元愛人に贈与税の納税を迫ります。
元愛人は稼ぎに乏しく、贈与税が支払えないと開き直ります。
そこで税務署は、この社長に元愛人の贈与税を支払えと言ってきました。
「そんな馬鹿な…」社長は絶句しますが、税務署の言い分は正しく、社長は元愛人の贈与税を泣く泣く支払うことになりました。
3.相続税の連帯納付義務
相続税の連帯納付義務とは、同一の被相続人から、相続・遺贈(含む精算課税贈与)により財産を取得した全ての者に対して、お互いに連帯納付義務を負わせる制度です。他の相続人の相続税について自動的に連帯保証をさせられるようなものです。
連帯納付義務は相続税の本税のみに留まらず、利子税もセットです。
税務署は、相続人のうち誰かが納税を怠れば、他の相続人に滞納の事実を伝える、つまり予告したうえで納税を要求します。
要求にあたっては、滞納した相続人の財産を差し押さえる等の面倒な手続きを前もって行う必要が有りません。
また、要求された側は、滞納した相続人の差し押さえを先に行うよう要求出来ません。
税務署側にとって非常に使いやすい制度です。
但し、自分自身が相続した財産の価額を超えて納税する必要は有りません。
4.贈与税の連帯納付義務
贈与税の連帯納付義務とは、財産を貰った方の贈与税について、財産を贈与した方に、自動的に連帯納付義務を負わせる制度です。
こちらは相続税と異なり、利子税ではなく延滞税が連帯納付義務の対象、滞納した方への差し押さえも不要で、贈与者に納税を要求できます。
前述の例では、愛人のマンションの処分をするまでもなく、社長に納税を迫れる訳です。
相続税と違い更に恐ろしいのが、滞納の事実を贈与者へ通知する必要が無いことです。つまり贈与者からすると、ある日突然、税務署から問答無用で納税を求められることになります。
なお、連帯納付義務の限度額は、贈与した財産の価額ですので、贈与財産に係る贈与税は全部負担することになります。
5.平成24年度税制改正
この不意打ちともいうべき連帯納付義務、さすがに政府でも問題とされたようです。
平成24年4月1日以降の申告期限に係る相続税のうち、次の相続税については連帯納付義務が解除されることになりました。
1 | 相続税の申告期限から5年を経過 + 税務署から納付通知書が来ていない |
2 | 納税猶予(農地等、山林、非上場株式)を受けた |
3 | 延納を受けた |
但し、あくまで相続税についてですので、贈与税については何も改正されていません。
どうも、贈与を出来るぐらいの資力のある方ならば、贈与税の負担ぐらい何でもないだろう、と考えられている節が有りそうです。
良い贈与の方法ですか?それは阿藤の著書『相続財産は「切り離し」で残しなさい』を是非ご参照ください。