一口に借地権と言っても、様々な借地権がある中で、今回は個人が土地所有者、法人が借地人のケースでの普通借地権の法人税法上の扱いについて述べたいと思います。
1. 借地権の借地借家法上の位置づけ
「借地権とは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。」ものとされています。存続期間が終了しても借地契約が更新されるのが原則である普通借地権と存続期間の満了によって、当然に消滅する定期借地権があります。定期借地権には、借地権の利用目的、存続期間、借地権消滅の相違から一般定期借地権、建物譲渡特約付借地権、事業用借地権と3種類あります。
2.法人が通常支払うべき権利金を支払っている場合
まず、法人税法での借地権は、借地借家法の範囲よりは広く、単に地上権や土地の賃借権をいうこととされています。そのため、建物の所有を目的とするものだけに限定されていません。
したがって、構築物(例えば、広告塔やアスファルト式の駐車場)の所有を目的とするものであっても理論上は借地権が発生する場合があります。
これは、権利金を収受するという取引の実態に応じて、借地権を捉えようとする考え方があるからです。
個人の土地に法人が借地権を設定した場合、法人が通常支払うべき権利金の額を支払っていれば、法人に対して特段の課税の問題は発生しません。この場合の地代の額は、一般の地代の額でよいとされています。
3. 法人が通常支払うべき権利金を支払っていない場合
法人が、通常支払うべき権利金の額を全く支払っていない場合には、通常支払うべき権利金の額と実際に支払った権利金の額との差額は、法人が贈与を受けたものとして取り扱われるので注意が必要です。
(借方)借地権 ○○○ (貸方)受贈益 ○○○
以下具体例を用いて計算します。
土地の更地価額=1億円、相当の地代の年額=600万円
実際に収受している地代の年額=240万円
実際に収受している権利金の額と特別な経済的な利益の額は0円と仮定します。
権利金額として認定される金額(基通13-1-3)
=1億円×(1-240万円÷600万円)=6,000万円
4.法人が通常支払うべき権利金を支払わず相当の地代を支払っている場合
法人が、通常支払うべき権利金の額を支払わず、相当の地代の額を土地所有者に支払う場合には、権利金の認定課税は行われません。ここに相当の地代とは、公示価格等から算定した合理的な土地価額に6%を乗じて算出するものです。
この場合、賃貸借契約以降の地代額の算定については、①土地の価額の上昇に応じて順次その収受する相当の地代額を改定する方法、②改定をしないで据え置く方法があります。
上記①の改定する方法を選択する場合は、税務署に「相当の地代の改定方法に関する届出書」を提出し、3年ごとに相当の地代の額を改定する必要があります。
もし、この改定方法に関する届出書がないときには、改定しないで据え置く方法を選択したものとされます。
かつてバブル時、土地の価額が急上昇していたときには、地代を据え置く事によって法人に自然発生借地権を生じさせる方法が一世を風靡したものです。個人の土地の価格を法人に移転させる相続税対策として有効な方法だったのです。しかし、バブル再来の気運は期待できない昨今、あまり利用されていないのが実情です。
5.土地の無償返還の届出書の提出
3の権利金が認定課税されるケースで、なんとかして権利金の認定課税を避ける方法はないのでしょうか。実は、これを回避する手段として、法人が遅滞なく土地の無償返還に関する届出書を税務署長に提出する方法があります。地主である個人と借地人である法人が連名でこの届出書を提出することにより権利金の認定課税は行われないのです。
また、借地人が法人の場合には、相当の地代の額と実際に支払っている地代の額の差額についても課税上の問題は発生しません。これは、差額の地代と受贈益は相殺関係にあると考えられるからです。
なお、土地の無償返還に関する届出書を提出する場合で、地主が個人、借地人が法人の場合には、地主の所有する土地の相続税評価額は更地価額の80%となります。
また、この場合に地主である個人が、借地人である法人の同族関係者のときは、法人の株価を算定する際に、純資産価額は更地価額の20%を加算して計算します。
借地権の設定料の支払もなく、土地価格の20%を法人に移転できるので相続税対策として、個人所有の土地に法人所有の建物を建築することは非常に有効なものと言えるでしょう。