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え〜っと通信

108号

2010年5月14日

二見 和美

遺言作成のすすめ

 遺言の最大のメリットは、ご自身が築き守ってきた大切な財産をどのように承継させたいのか、ご自分の意思で決め、その意思を文章で明確に伝えることができるところにあります。また、相続税の申告の現場で相続人のお立場に立つと、遺言がある場合にはやはり被相続人の意思を尊重しようとするお気持ちは強く、また、受け入れやすいものです。相続税申告までの10か月という短い期間に分割協議というストレスを受けなくてよかったとおっしゃる事例はたくさんあります。


1.遺言でなければできないこと

 子供がいない場合、法定相続人は配偶者とご自身のご両親又は兄弟姉妹です。すべての財産を確実に配偶者に承継させるには遺言がなければなりません。また、どうしても長男に引き継がせたい財産がある場合には、それを遺言で指定しなければご希望通りに承継させることができません。可愛くてたまらない孫に財産をあげたい場合にも、養子でなければ遺言を残すしかありません。このように、遺言がなければご自分の意思を実現できないことがたくさんあります。


2.2割加算でも遺贈が有利な場合も

 ところで、相続人以外の者はもちろん、相続人であっても被相続人の兄弟姉妹等一親等の血族でない者が相続又は遺贈により財産を取得する場合には、その相続税額に、更に2割相当額を加算することになっています。この加算対象者には孫(養子であっても対象。ただし代襲相続人である場合は除く)も含まれます。愛する孫に遺言で財産を渡そうと考えても、この2割増の税負担は気になるところです。
 既に配偶者がおらず、相続人は子が1人、相続が起きた場合には50%の相続税率の適用が予測される方の事例です。この方の子に相続が発生した場合にも、やはり50%の税率の適用が予測されるとします。このような場合には、所有資産を養子ではない孫に遺贈するということは、今回2割多く税額を払うことにより、次の50%の適用税率を回避する、つまり一世代飛ばしを活用できることになります。これを単純に適用税率のみで比較しますと、次のようになります。
 2回の相続の場合には、いずれの相続も50%の適用税率(注1)であるため、孫へ承継される財産は(1-50%)×(1-50%)=25%(注2)です。これに対して、遺贈の場合には50%×1.2=60%の税額を支払い、孫へ承継される財産は40%となります。
 このように適用される税率や家族構成によっては、2割多く税金を支払っても有利となる可能性もあるのです。


3.思いだけでなく検討しておくべきこと

 もちろん、申告の現場では必ずしも税務上有利ではない遺言と向き合うこともしばしばです。小規模宅地等の評価減は、取得者の条件で適用の有利不利に大きな差が出るため、これを考慮していない遺言では納税額の多寡に影響があります。二次相続の税負担を一切考慮していない配偶者への遺贈や、遺贈財産では納税資金が工面できないといったものもあります。
 また、民法では、ご存知のように遺言であっても侵せない相続人の権利として遺留分が認められています(兄弟姉妹が相続人の場合には遺留分はありません)。いくらご自分の意思といっても、相続人から遺留分の減殺請求権を行使され、争いになってはどうしょうもありません。
 最優先すべきはなによりご自身の意思ですが、このようなことも考慮した遺言であれば、よりご自身のお気持ちが伝わり、承継もスムーズとなるのではないでしょうか。


4.遺言の形式

 遺言は、民法で厳格な方式が定められており、その方式に従っていない遺言は無効です。これは遺言者の意思を確実に実現させる必要があるためです。自筆証書、秘密証書、そして公正証書という方法がありますが、自筆及び秘密証書はその内容自体が法的に不備である可能性もあり、また、これを発見した人が家庭裁判所に届け出て検認を受ける必要があります。遺言なさる以上は、検認手続きも不要で、法的に不備のない公正証書の作成をおすすめしています。ただし、財産の価格等に応じて公証人へ支払う手数料など費用がかかるものですから、作成にあたってはいろいろな面からの検討が必要でしょう。法律上の問題より、むしろ税務上の問題が大きな影響を及ぼすのが遺言であると心得ておきたいものです。

(注1)相続税は超過累進税率を採用しており、課税財産の価格が多くなるに従い適用される税率が段階的に高くなります。実際にはすべての部分について一律で50%の税率で計算されるわけではありません。
(注2)次の相続における配偶者の税額軽減は考慮していません。配偶者の取得財産の課税価格が、1億6千万円又は法定相続分相当額のいずれか多い金額までは、配偶者には相続税がかかりません。配偶者がいる場合の相続では、最大で2分の1まで、相続税を払わずに配偶者が財産を取得することができますから、実際の税負担は少ないものとなります。ただし、この適用を最大限に受けて配偶者が相続税を払わないことが、必ずしも有利とは限りません。配偶者ご自身のご所有資産及び取得財産の額により、次の相続での適用税率等を検討し、分割を検討すべきといえます。

※執筆時点の法令に基づいております