昨年12月に平成18年度税制改正大綱が発表され、平成18年1月17日に閣議決定されました。その中に新聞等マスコミではほとんど触れられていないにもかかわらず、小規模の同族会社に対する非常に重大な改正が含まれておりました。今回はその改正について考察したいと思います。
1.改正の内容
まずはその内容から
同族会社の業務を主宰する役員及びその同族関係者等が発行済株式の総数の100分の90以上の数の株式を有し、かつ、常務に従事する役員の過半数を占める場合等には、当該業務を主宰する役員に対して支給する給与の額のうち給与所得控除に相当する部分として計算される金額は、損金の額に算入しない。 ただし、次の(1)又は(2)に該当する場合にはこの規定は適用しない。 (1)同族会社の所得等の金額(※)の直前3年以内に開始する事業年度における 平均額≦年800万円である場合(2)①年800万円<上記(1)の平均額≦年3,000万円以下であり、かつ、 ②上記の給与の額÷上記(1)の平均額≦50/100である場合(※)所得の金額と所得の金額の計算上損金の額に算入された上記の給与の額の合計額(大綱より) |
判りやすく説明しますと、一定の同族会社の業務を主宰する役員に対する給与のうち、給与所得控除額に相当する額を法人の経費として認めませんよ、法人の所得に加算して下さい、ということです。現段階では「業務を主宰する役員」が誰を指すのか明らかではありませんので、仮に代表取締役ということでご理解ください。
2.目的
「個人所得税における給与所得控除と法人税の課税所得計算における代表取締役に対する給与の損金計上との二重経費化を排除するのが目的である。」と推測する方がいらっしゃるようです。
しかし、給与所得控除は給与所得の必要経費に相当するものであり、他方代表取締役に対する給与は法人税法上の損金です。すなわち、給与所得控除と代表取締役に対する給与は、個人、法人という異なる人格に帰属する所得計算上の必要経費であり、損金なのです。従って、二重経費になどなっておらず、二重経費と考えることに誤りがあるのです。
仮に、二重経費化を排除するのが目的であるならば、目的自体に誤りがあると言わざるを得ません。
3. 対象法人
株主は親族だけというような同族会社のほとんどに、その対象が及ぶものと考えられます。
ただし、左記1、改正の内容の要件(1)又は(2)を満たす法人については、その適用は除外されますので、極めて零細な会社には適用がないと考えて良いでしょう。
4. 担税力
給与は、社外流出しておりますので担税力はありません。交際費等の損金不算入と考え方は一緒です。代表取締役から借金をして納税をして下さいとでも言うのでしょうか。
5. その対策は?
発行済株式の10%超を他人に所有してもらうことで、その適用を回避することができます。例えば取引先の同族会社の株主と株式を交換し、譲渡代金は相殺する。或いは取引先の同族会社と会社間で株式を持ち合う、又は顧問税理士に株式を買ってもらう。なんてことが考えられそうです。但し、いずれの場合についても株式の譲渡に該当しますので所得税が課税されることは、お忘れのないように・・・ということは、税理士は当分、同族会社の株価計算に追われる事を覚悟しなければならないのでしょうか。