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COLUMN
毎月職員が交代で執筆しています。
ただ、自分の順番が回ってくると、
その対応は様々です。
税務のプロとして、日頃の実務や研究の成果を
淡々と短時間にまとめる者、
にわか勉強で急に残業が増える者、さて今月は…
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271号
精算課税贈与の活用 ~2024年以降の考え方~
2024(令和6)年から贈与税が変わります。暦年課税は、贈与加算が相続開始前3年から段階的に7年に延長されます。精算課税贈与は、新たに毎年110万円までの非課税枠が設けられ、使い勝手がよくなります。
この改正を踏まえ、来年以降の精算課税の活用方法を検討します。1.令和6年以降の暦年課税について
令和6年以降の暦年課税は、贈与加算が段階的に7年以内に延長されるため、相続直前の節税目的の贈与が難しくなります。贈与加算は、基礎控除110万円以下の部分も含めて贈与した財産を相続財産に取り込んで相続税を計算するので、該当してしまうと贈与による節税の効果は失われます。
ただし、贈与加算の対象となる方は、相続人、受遺者や死亡保険金の受取人など相続で財産を取得する人(以下「相続人等」といいます。)に限られます。相続人等は別として、相続人等以外の孫などへの贈与は、贈与加算の対象になりません。贈与加算のことは気にせず、これまでどおり暦年課税を使うことができます。しかも、暦年課税は、精算課税とは違い適用を受ける人の要件がありませんので、孫や子の配偶者など多くの人に贈与することが可能です。2.精算課税の概要
・贈与者…60歳以上
・受贈者…18歳以上の推定相続人、孫
・特別控除額…累積2,500万円
・税率…特別控除額を超えた部分について一律20%
・贈与加算…2,500万円の特別控除額の枠内も含め、精算課税を利用して贈与した財産(贈与したときの評価額)をすべて相続財産に取り込んで相続税を 計算します。支払った贈与税は相続税から控除し、控除しきれない部分は相続税申告で還付を受けることができます。
・非課税枠…令和6年以降、累積2,500万円の特別控除額とは別に毎年110万円の非課税枠が設けられます。
・暦年課税と精算課税の選択は、贈与者ごとに行います。一度、精算課税を選択したらその選択をした贈与者から受ける贈与については、暦年課税に戻 ることができません。3.令和6年以降の精算課税の活用方法
令和6年から新たに設けられる精算課税の110万円の非課税枠を活用する方法をご説明します。
(1) ご相続が近い場合
110万円の非課税枠の部分は、贈与加算の対象外です。つまり、精算課税を使えば、相続開始の直前であっても、年間110万円まで無税で贈与した上、相続財産から切り離すことが可能です。
ご相続が近い場合、相続人等に対する暦年課税は贈与加算の対象になるリスクが高いです。贈与加算を回避するため、精算課税を選択できる子などの推定相続人は、精算課税を選び年間110万円の非課税枠をきっちり使って相続税を減らすことができます。
(2) 贈与者が2人の場合
父A、母Bの2人が子Cに贈与するとします。暦年課税と精算課税の選択は、贈与者ごとに行います。令和6年以降は、A、Bの2人とも暦年課税または精算課税を選択するとCの非課税枠は110万円です。しかし、Aが精算課税、Bが暦年課税を選択すると、Cは精算課税の非課税枠110万円と暦年課税の基礎控除110万円の最大220万円まで1年間に無税で贈与を受けることができます。
Aに相続が発生すると、CはAから贈与(精算課税)を受けた財産を最大110万円×贈与年数だけ無税で承継できたということになります。
Bに相続が発生すると、Bからの贈与(暦年課税)のうち、贈与加算の期間を徒過したものは相続財産から切り離されます。仮に先にAに相続が発生したら、Bからの贈与について贈与加算を避けるため、暦年課税から精算課税に切り替えるのも一案です。4.適切な選択を
精算課税は、贈与者と受贈者に一定の要件があります。また、一度に多額の贈与をしたい場合や、将来値上がりしそうな財産を移転するには使いやすい制度ですが、一度選択すると暦年課税に戻せません。そのため、相続財産はどのくらいあるか、110万円の非課税枠を超えて贈与をするか、相続により財産を取得する予定か等、色々な検討要素があります。
令和6年以降は2つの制度を併用することで、非課税枠が220万円まで拡充されます。次世代への財産の移転の促進のため、有効に使うことが大切です。それぞれの贈与制度について、特性を踏まえた上で使い分けることが必要と考えます。2023年11月15日
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270号
非上場会社の事業を分割するときの税務について
同族会社の事業承継において、複数の相続人が共同で事業を引き継ぐ場合、経営方針が一致するとは限りません。むしろ、親族であっても考え方は十人十色ですから、円滑な共同経営は将来的な課題となります。その親族間の共同経営の対策として会社の分割が有効なことがあります。今回は、質疑形式を使って会社を分割する際の税務をご紹介します。
1.質問
父Aは、長男Bと二男Cの2名の子がいます。
父Aの主な財産は、不動産賃貸業を営む非上場の同族会社の株式です。その同族会社は、父Aが100%株主であり、賃貸マンションを2棟(簿価3億円×2棟)所有しています。父Aは、相続人である長男Bと二男Cの2名に財産を均等に相続させたいと考えています。どんな方法が考えられますか。2.会社分割の検討
理想的には、相続人同士が協力して会社を経営してくれることが望ましいでしょう。しかし、兄弟間で何かの折に意見が対立することも珍しくなく、2人に株式を等分に分けてしまうと、会社の意思決定に問題が生じ、将来的に会社の経営が困難になることが予想されます。兄弟2人で株式を持ち合うのはお勧めできません。
そこで、簡便的に賃貸マンション1棟を1つの事業単位とみて、兄弟に均等に財産を相続します。現在の会社を二つの会社に分割しておき、相続発生時に分割前から存続する会社(旧会社)の株式をB、新設された会社(新会社)の株式をCが各々引継ぎ、単独で会社を経営していきます。
それでは会社分割の方法と税務の取扱いをご紹介します。3.事業譲渡を用いる場合
事業譲渡とは、会社が特定の資産、事業、または負債を他の企業や個人に売却する手法です。今回の事例では、父Aが100%出資の新会社を作り、その新会社に旧会社が賃貸マンション1棟を売却しますので、新会社から旧会社に売買代金を支払うことになります。
税務上の要点として、新旧の会社を一つのグループとしてみたときのグループ外への税流出を考えます。まず資産の譲渡損益については、新旧会社の株主は父Aのみであるため、グループ法人税制の適用により、資産移転時の法人税負担は繰延べられます。しかし、両社の取引を通じて登録免許税、不動産取得税等の流通税や一定の事業者に対して消費税等の負担が生じるため、計画段階でこれらの税負担を考慮して検討する必要があります。ただ、収入のすべてが住宅の貸付業である同族会社間の不動産売買において、時価と簿価の差額がない場合は、売主に法人税・消費税の税負担は生じず、税流出は流通税の負担のみで済みます。4.会社分割を用いる場合
会社分割とは、一つの会社を2つ以上の独立した会社に分ける手法です。それぞれの会社が、賃貸マンションを1棟ずつ所有します。
税務上の要点としては、支配関係が継続しているなど一定の要件を満たした場合は「適格分割」に該当し、事業譲渡よりも有利になることがあります。具体的には法人税、消費税が掛からず、一定の要件を満たしている場合は不動産取得税も掛かりません。また、不動産の購入資金も必要がないため、資金的な負担が少なく、リソースを効率的に活用できるというメリットがあります。
さらに、会社分割は権利と義務を一括して移転するため、法務手続きが比較的容易であるという特長もあります。したがって、一定の要件を満たすのであれば事業譲渡よりも使いやすく有効な手法になります。5.留意点
会社分割は、比較的コストをかけずに実行できるのですが、事業承継の観点からすると実行時期に注意が必要です。
① 相続後に会社分割を行う場合
相続が発生し、遺産分割で旧会社の株式を相続人が各々50%ずつ取得した後に兄弟が旧会社を分割しようとすると問題が生じます。適格分割に該当するためには旧会社の株主の持分割合に応じて新会社の株式を発行しなければならないため、新会社もBとCが50%ずつ持ち合わなければなりません。BとCが新旧会社を各々100%所有になるよう会社分割すると、適格分割にはならないため、賃貸マンションを時価で旧会社から新会社へ移転したものとみなされます。事業譲渡と同様にグループ法人税制が適用され、旧会社に対する法人税は繰り延べられますが、一定の事業者には消費税の負担が生じます。更に新会社の株式を取得するCは、時価で旧会社の株式を売却して新会社の株式を取得したものとされますので、みなし配当による税負担が生じてしまいます。
② 相続直前に会社を新設して会社分割をした場合
非上場会社の株式の相続税評価の多くは、会社の財産を基にした株価(純資産価額方式)と業績値を基にした株価(類似業種比準方式)を組み合わせて算出することになります。ただし、開業後3年未満の会社は一般的に評価額が高くなりやすい純資産価額方式のみで株価を算定することになり、類似業種比準方式を併用することができません。更に取得後3年以内の土地等は時価で評価する必要があるため、相続時の株価が高くなることがあります。6.まとめ
生前から事業承継を見据えて会社の事業を分割するというのは、どうしても時間がかかってしまいます。会社分割の活用をお考えの場合は、税務や法務に関する専門家としっかりと相談して計画を立てることが大切です。
2023年10月16日
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269号
実家に帰ってマイホームを建てる(増築する)時の税務の注意点
一生で一番大きな買い物といわれるマイホーム。近年は不動産価格の上昇により購入者の負担もより大きくなっています。子が家を建てるとき、家の建築資金は出せるが、土地は購入できないという場合、親の土地に家を建てることがあると思います。このようなときの相続税・贈与税の注意点を考えました。
1.子が親の土地にマイホームを建てるとき
子が親の土地に家を建てると、土地の購入費用がかからないので、子の負担は軽減されます。家が完成して住んだら、親が地主で、子が賃借人となりますが、他人に土地を貸して建物を建てさせたときと同じように、親子間であっても借地権は生じるのでしょうか。
2.使用貸借と賃貸借
親子間で地代のやりとりをするかどうかで借地権は以下のような違いがあります。
(1) 使用貸借
親族における土地の貸借は、わざわざ権利金や地代を決めて賃貸借を開始することはほとんどなく、タダのケースが多いと思われます。
タダでの貸借を含め、借り受ける土地の必要経費である固定資産税相当額以下での貸借を「使用貸借」といいます。「使用貸借」は、地代のやりとりをする「賃貸借」と比較して賃借人の権利が借地権ほど強くありません。税務上は、子に借地権が発生したとはみないので、贈与税がかかることはありません。また、子は土地をタダで借りることから、将来にわたって地代相当の利益を受けることになりますが、この部分にも基本的に贈与税はかかりません。
ただし、将来の相続税では、「使用貸借」している土地として評価しますので、借りている子の権利は考慮されず、更地価額が相続税の対象になってしまいます。
(2)賃貸借
固定資産税相当額を越える地代のやりとりをする「賃貸借」の場合は、借主に借地権が発生するため、相続税評価上は更地価額から借地権価額を控除して評価することになります。
ただし、権利金の支払いがないと、親から子に借地権相当の贈与があったとされ、思わぬ税金が発生しますので注意が必要です。3.親の家と同じ敷地にマイホームを建築するとき
(1)別棟を新築して住むとき
親の家の隣に子が家を建てて住むのは、いきなりの同居に対する抵抗がある場合は良いかもしれません。
ただし、同一敷地内で別居する子が相続で敷地を取得する場合、特定居住用の小規模宅地の特例の適用要件である「同居親族」を満たさなくなるため、原則として、同特例の適用を受ける事が出来なくなります。
例外として、別居の子が親の生活費を面倒みるなど生計が一であれば、敷地のうち子居住部分のみが特例の適用対象になります。
(2)親の家に増築して2世帯住宅とするとき
親の所有する建物に子が増築して2世帯住宅にすると、子からみればマイホームを一から建てるよりは金銭負担が軽くなりそうです。しかし、次のように贈与の問題が生じるかもしれません。
親名義の建物に子がお金を出して増築すると、増築部分は親の建物になりますから、親は子から増築費用分の贈与を受けたことになってしまいます。そこで子が支払った増築費用分の建物の名義を親から子に移転させて共有とすれば、贈与税がかかることはありません。
しかし、1つご注意いただきたいことがあります。
(3)2世帯住宅は共有登記か区分登記か
増築部分を登記する方法として、共有のほかに建物の構造などの条件を満たせば区分登記することができます。区分登記すれば、親の家と子が増築した部分は別の家屋になりますから、共有持分の計算をする必要はありません。しかし、特定居住用の小規模宅地の特例では区分登記された建物は登記に合わせて別の建物と判定することになります。したがって、子が親の家に増築して増築部分を区分登記すると、別棟を新築したのと同じように、特定居住用の小規模宅地の特例の適用に影響が及びます。小規模宅地の特例では共有のほうが有利です。4.まとめ
実家に帰ってマイホームを建てる(増築する)ことは親子の生活にとって大きな転機となります。税金面はご説明したように選択の仕方によって様々な違いが生じてきます。どのような方法が良いか相続税・贈与税の注意点も考慮に入れて決めていただければと思います。
2023年9月15日
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268号
本当にあった相続税の話 母の預金口座から14億円を出金
今回は、相続税に関する裁判例をご紹介し、タンス預金について考えます。
1.事案の概要
二男は、母の預金14億円を2年余りの間に毎日のようにATMから200万円ずつ現金で引き出し、相続税の申告財産を隠したというものです。
2.判決内容(令和5年2月16日東京地裁判決)
二男は、「母の預金から現金を引き出したのは自分ではない。」と主張して裁判をしましたが、認められませんでした。
二男は、国税局の調査で母の預金14億円の説明を求められましたが、一貫して「知らない」という態度で臨みました。調査では、引き出された現金が見つからなかったばかりか、二男が預金を引き出した決定的な証拠となるATMの監視カメラ映像が無かったようです。
しかし、国税局は、①母は認知症を患って老人ホームに入っており、ATMから預金を引き出していないこと、②預金が引き出されたコンビニの店員は、頻繁に二男が来店していたのを目撃していたこと、③ETCカード履歴による二男の滞在場所と現金が引き出されたATMがいずれも近隣していることなど、いくつかの証拠を積み重ねて二男が母の承諾なく預金を引き出したので、不当利得返還請求権の申告漏れがあると判断しました。裁判所は、国税局の主張を全面的に認めました。3.不当利得返還請求権?
申告漏れ財産は、二男が引き出した現金ではなく、不当利得返還請求権という債権とされています。不当利得返還請求権とは、法律上の原因がなく利益を得た人に対して、損失を被った人が利益の返還を求める権利です。
二男は、母に無断で預金から現金14億円を引き出し、その現金を所持しているか使ってしまったと認められるので、母には二男に対して14億円の返還を求める不当利得返還請求権が成立することになります。4.タンス預金は見つかるか?
相続税の調査は、相続開始から2・3年後に行われるのが一般的です。現金は、名前が書かれていないので誰のものか直ちに分からない上、使えば無くなるし、記録が残らないまま保管場所を移すこともできます。現金そのものが税務調査で見つかり難いことは間違いないでしょう。
しかし、現金そのものが見つからなかったとしても、相続税の調査では、税務署が持っている過去の様々な資料と申告内容の矛盾や預金口座の動きを注視しており、相続人に疑問点の説明が求められます。調査官の納得いく説明内容でなければ徹底した調査が行われます。
二男のように毎日200万円、合計14億円もの現金を引き出して何も知らないというのは無理な話です。また、国税局が裁判で主張した不当利得返還請求権というロジックが使われると、現金そのものや現金の使い道が調査で明らかにならなくとも課税処分されてしまいます。結局、タンス預金を隠し通すのは、難しいと言わざるを得ません。5.タンス預金のリスク
タンス預金は、低金利を背景に総額100兆円を越えると言われています。タンス預金を持つこと自体は、税務上、直ちに問題になるわけではありません。
しかし、タンス預金は、銀行等に預けた場合と比べ、①盗難や火災等に対する安全性が低い、②ばれたくないと考えると自由に使うことが難しくなる、③申告漏れ財産として税務署にばれた場合、悪質とみられペナルティーが大きくなるというデメリットがあります。6.まとめ
この裁判では、二男の2年間に渡る徹底した毎日の200万円の引き出しは水の泡。さらに重加算税までかかって大変なことになりました。
令和6年に新紙幣が導入されることから、紙幣交換のタイミングで新たな資料が税務署に蓄積されるかもしれません。タンス預金をお持ちの方は、その資産運用・相続対策を検討してはいかがでしょうか。2023年8月17日
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267号
祖父母から孫への資産移転方法
~一括贈与の改正を踏まえて検証~2023年度の税制改正で、教育資金・結婚子育て資金贈与特例について非課税措置の期限が延長されましたが、使い勝手が悪くなったところもでてきました。政府は、両親や祖父母の資産を早期に移転し、有効活用することを支援するためこれらの制度を創設しましたが、改正毎に課税を強化しています。それでは、一体どのような方法が一番次世代へ資産を継承しやすいのか、今回は祖父母から孫への移転方法について検証してみました。
1.祖父母から孫への贈与税の非課税措置
相続対策として使われる一般的な贈与税の非課税措置としては、下記のようなものがあります。
①教育資金に係る一括贈与(1,500万円)
②結婚・子育て資金の一括贈与(1,000万円)
③住宅取得資金の贈与(1,000万円又は500万円)
①②の一括贈与は、銀行等に贈与資金を拠出し、教育代等の領収書を保管して支出の都度銀行等に提出が必要なことから、管理が煩わしいのがデメリットとなります。一方、住宅取得資金の贈与は、手続きが1回で済むので管理の面からメリットがあると思います。2.教育資金贈与とは
教育資金贈与は、今年度の改正で令和8年3月31日まで適用期限が延長されました。祖父母(親)から1,500万円まで一括贈与を受けても非課税となりますが、祖父母死亡時の残高を相続財産に加算する必要があります。数年前までは残高があっても一括非課税でしたが、その後孫(受贈者)が相続開始時に23歳未満であれば非課税と徐々に課税強化されてきました。そして、今年度の改正で更に規制が入り、贈与者である祖父母(親)の相続税の課税価格の合計額が5億円を超える場合には、23歳未満でも残高に対して相続税が課税されることになりました。孫に対する相続税額の2割加算が適用されるため、超資産家である祖父母から孫への贈与については、かえって相続税額が増える場合もあります。これまでより選択を慎重に行う必要がでてきます。
また、孫が30歳になり祖父母が存命の場合、使い残し部分に対して贈与税が課税されます。この贈与税率も直系への低税率である「特例税率」から「一般税率」へ改正となり同じく課税強化となりました。3.結婚子育て資金贈与とは
結婚子育て資金贈与は、今年度の改正で令和7年3月31日まで適用期限が延長されました。祖父母(親)から1,000万円まで一括贈与を受けたときは非課税となりますが、教育資金贈与と異なり、残高に対しては 例外なく相続税の課税対象となります。孫への2割加算課税もされますし、使い残し部分に対しての贈与課税もされ、税率も教育資金贈与同様「一般税率」へ変更となり課税強化されました。
4.住宅取得資金贈与とは
住宅取得資金贈与とは、親や祖父母などから住宅取得のための資金援助を受ける場合、最大1,000万円までは非課税となる贈与のことです。贈与時期や住宅の性能によって下表のように非課税限度額が異なります。
適用を受けるためには、受贈者である孫の所得要件や取得建物の要件・確定申告が必要ですが、前記の教育資金・結婚子育て資金贈与と大きく異なるメリットがあります。
5.相続直前の贈与でも相続税に加算無し
住宅取得資金贈与の一番のメリットは、相続直前の贈与でも相続財産への加算がされないことです。今年度の税制改正で生前贈与加算が3年から7年へ延長されます。これまでよりも長期的に贈与税対策が必要となることから、生前贈与加算の対象にならない孫などの法定相続人以外への贈与対策も考慮する必要がでてきます。祖父母から孫への大きな資産移転方法としては、相続直前でも行いやすい住宅取得資金の贈与が最も使い勝手がよく、また管理がしやすいと思います。
6.住宅取得資金の贈与の留意点
住宅取得資金の贈与適用時の留意点があります。孫が住宅取得をすると持ち家有の状態となります。ここで相続発生の特例適用時にデメリットがでてきます。それは、小規模宅地等のいわゆる「家なき子」制度を適用できなくなることです。例えば、祖父母に相続が発生した場合、孫に自宅を相続させるなどの遺言を作成していても、家なき子でなくなるため、特定居住用宅地等の80%減額の適用が出来なくなってしまいます。「家なき子」として子供は小規模宅地等の適用が難しいことから、孫への遺贈を考えている場合に、特例の適用が不可となってしまいます。ご自宅の路線価が高い地域の場合の影響度はかなり大きく、住宅取得には相続を踏まえた総合的な判断も必要となります。
7.まとめ
祖父母から孫への一括贈与に対して検証してきましたが、扶養義務者からの生活費・教育費等の贈与についてはそもそも非課税とされています。お孫さんのライフステージに合わせてその都度必要な教育費等の贈与を行い、住宅取得という大きな資産形成時に一括贈与などをご検討されてはいかがでしょうか。
2023年7月14日
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266号
老人ホーム等に入所中に相続があった場合の小規模宅地の特例
近年、老人ホームや介護施設等の数はどんどん増えています。老人ホームといっても、富裕層の方しか入ることができないような高級老人ホームも近年は増えており、一人暮らしのため、平日は自宅で生活し、週末だけ高級老人ホームを別荘のように利用するケースもあるようです。
今回は、被相続人が老人ホームに入所中に相続があった場合でも、小規模宅地の特例の適用を受けることができる要件を考えていきたいと思います。1.小規模宅地の特例について
相続開始の直前において「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」については、一定の要件を満たす場合、自宅敷地のうち330㎡まで相続税評価額の80%を減額することができます。小規模宅地の特例を使えるかどうかで相続税額は大きく変わってきます。
被相続人が自宅を離れて老人ホームに入所したまま相続があった場合、一般的には、相続開始の直前において被相続人が自宅に住んでいたとはいえません。それでは、自宅の敷地に小規模宅地の特例を使えないのでしょうか。2.老人ホーム入居中に相続があった場合
結果から言えば、次の3つの要件を満たす場合は、自宅の敷地は老人ホームの入所直前の状況をもって「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」とみることになりますので、小規模宅地の特例の対象となります。
要件① 相続開始直前に要介護認定等を受けていること
要件② 老人福祉法等で認定された老人ホーム等に入所していたこと
要件③ 老人ホーム入所後の自宅が賃貸等されていないことこれは、被相続人が介護を受ける必要があるため、住んでいる自宅を離れて老人ホームに入所しなければならない場面を考えています。被相続人は、自宅での生活を望んでおり、いつでも自宅で生活することができるように自宅が維持管理なされていれば、実際には病気療養のために一時的に入院しているのと同様な状況にあります。自宅で生活していないため一律に小規模宅地の特例の対象に当たらないとするのは実情にそぐわないからです。
3.要件①…要介護認定等について
被相続人が要介護認定等を受けていたかどうかは、老人ホームに入所した時ではなく、相続開始時までに認定を受けていたかどうかで判定します。
それでは、要支援認定の申請中に亡くなった場合はどうなるのでしょうか。申請をしてから市区町村の審査を受けて認定を受ける流れになりますが、介護保険法では申請があった日に、さかのぼって効力が生じることになっています。相続開始時点では、申請中であっても、相続後に要支援認定が認められれば大丈夫です。
なお、配偶者が要介護認定を受けたために、夫婦で一緒に老人ホームに入所することもあるかと思います。この場合で、要介護認定を受けていない方が亡くなってしまったときは、自宅の敷地について小規模宅地の特例の適用を受けることはできません。4.要件②…老人ホームについて
入所する老人ホームはどこでもよいというわけではなく、一定の要件を満たしている必要があります。老人福祉法により都道府県から認可を受けている老人ホームなどが該当します。
無認可の老人ホームでは、小規模宅地の特例を受けることができませんので、入所前に施設に確認をしておくことが大事です。5.要件③…老人ホーム入所後の自宅が賃貸等されていないこと
自宅は、基本的には老人ホーム入所時と同じ状態を保つ必要があります。老人ホームに入所後、自宅の用途を変更し、他人に賃貸しているときや事業用に使用しているとき、生計が別の親族が引っ越してきたような場合には、小規模宅地の特例の適用が不可となりますのでご注意ください。
なお、新たに自宅を他人に賃貸した場合は、居住用の8割引きに代えて、貸付事業用として200㎡まで5割引きの小規模宅地の特例を受けることができる場合があります。6.誰が自宅の敷地を相続するか
自宅を相続する方が誰でも小規模宅地の特例を使えるわけではありません。
被相続人が老人ホームに入所中に相続があった場合、小規模宅地の特例を使うことができる相続人は、次のいずれかの方です。①配偶者
②老人ホームの入所直前に被相続人と同居していた相続人
③上記①、②がいないときは、いわゆる家なき子の要件を満たす相続人7.最後に
小規模宅地の特例は、相続前の状況で使えるかどうかが決まる要件が多くあります。また、老人ホームへの入所が絡むと、判断が複雑で非常に難しくなります。
老人ホームへの入所を考えている方は事前に検討しておくことをお勧めします。ご不明な点がありましたら、ATOまでご相談ください。2023年6月15日
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265号
タイミングで変わる相続財産
~売買契約中に相続が発生したら~土地は、路線価から計算する相続税評価額よりも高い金額で売買されることが多くあります。
土地の売買契約を締結した後、残代金決済と引渡しが完了する前、土地名義が売主のまま相続が発生したとします。この場合、相続税はどのようになるのか。事例にあてはめて被相続人が売主のケースと、買主のケースに分けてご説明します。1.事例
被相続人が、土地を相続税評価額の2倍の金額で売買契約を締結し、手付金3,000万円を受け渡した段階で相続が発生したとします。
・土地の相続税評価額…1億5,000万円
・売買代金…3億円
・手付金…3,000万円
・残代金…2億7,000万円
なお、残代金決済と引き渡しが完了していないため、土地名義は売主のままです。2.被相続人が売主のケース
(1) 相続税の取扱い
売主の相続財産は、売買契約に基づく譲渡金額のうち相続開始時における未収金(=残代金)になります。
事例では、相続財産は土地(1億5,000万円)ではなく未収金(2億7,000万円)です。他に被相続人が受取済みの手付金3,000万円も相続財産になります。このケースでは、売買契約締結のタイミングで相続財産が1億5,000万円増えることとなります。(2) 考え方
土地名義が被相続人のままなのに、相続財産を土地として路線価評価できないのはなぜでしょうか。
売主に相続が発生した場合、売買契約中の土地は、名義が被相続人のまま所有権が残っていても、相続人は残代金を受け取るのと引き換えに土地を買主に引き渡さなければなりません。相続税では、売買契約中の土地が主に残代金を確保するためのものだから、相続財産の種類を土地として路線価評価するのではなく、未収金(債権)とすべきと考えられています。
(3) 小規模宅地の特例適用について
居住の用や事業の用に供されていた土地に適用される小規模宅地等の特例は、土地等の売買契約中に相続が発生した場合、相続財産が未収金になるため原則として適用することができません。3.被相続人が買主の場合
被相続人が買主だった場合の相続財産はどのように考えればよいでしょうか。
(1) 相続税の取扱い
買主の相続財産は、原則として、売買契約に係る土地の引渡請求権という債権となり、その財産取得者の負担すべき債務が相続開始時における未払金になります。つまり、純財産は、引渡請求権と未払金との差額になります。
例外として、買主は、所有権移転の有無にかかわらず、売買契約中の土地を相続財産として路線価評価して申告することも認められています。申告する相続財産の選択の仕方で大きな差が生じますので、ご注意ください。
(原則)
事例では、相続財産は引渡請求権3億円であり、未払金が2億7,000万円になります。差額の3,000万円が純財産になります。
(例外)事例では、相続財産は土地1億5,000万円であり、未払金が2億7,000万円になります。差額の1億2,000万円が純債務になります。
(2) 小規模宅地の特例適用について
相続財産を土地として申告する場合、一定の要件を満たせば小規模宅地等の特例を適用することができます。4.売買契約のタイミングは慎重に
相続直前に土地を譲渡すると、売主の相続財産が土地から譲渡代金に変わるため、相続財産が膨らむケースが多くあります。売買契約中の相続でも、上記のように膨らむことがあり得ます。土地の売買は高額になり易いので、売買契約締結に当たっては、資金需要や使い道を考えた上で慎重にタイミングを検討することが必要と考えます。被相続人が土地の売買契約を締結中であった場合は、必ず税理士にお伝えください。
2023年5月15日
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264号
非上場株式を譲渡したときの税金について
同族会社の後継者以外の方にとって、相続財産の中で換金が難しく扱いに困りがちな財産とは?その一つが同族会社の非上場株式です。通常、株式は相続財産として配偶者や子供に引き継がれます。後継者は会社の株式が相続により分散すると買い取りや贈与でまとめる必要が出てきます。また、後継者以外の方にとっては相続したものの、相続税等の税金がかかるだけの財産になってしまうことも少なくありません。手放したい場合はその会社の後継者か、その会社自身に引き取ってもらう必要があります。そこで今回は非上場株式を発行会社に売却した場合にかかる税金をご説明させていただきます。
1.非上場株式の譲渡の概要
前提として、創業以来資本関係に変動はなく、資本金や利益剰余金が十分にあり株主は親族で占められている非上場の同族会社で考えます。
最初に通常の株式の売却を考えます。一般に株式の譲渡は、収入金額から取得費(取得時の金銭等の払込み金額)と譲渡費用を控除した残額に対して、約20%(所得税・住民税)の税率を適用します。親族で引き継いでいる非上場株式は、相続や贈与で移転していることが多いので、実務的には出資金額が取得費となる事が多いです。
次に個人の株主が、発行元の同族会社に時価で売却するケースを考えます。この場合は、出資金額に対応する部分とそれを超える部分で取り扱いが変わります。
出資金額に対応する部分は、会社は同額を資本金等から取り崩して支払い、出資した金銭の払戻しになりますので、課税関係は生じません。一方、出資金額を超える部分については、所得税法上、会社からの配当とみなされるため、配当所得(みなし配当課税)として扱われます。非上場株式の配当所得は総合課税となるため、最大で約55%(所得税・住民税)の税率が適用されます。同族会社への売却の課税関係をまとめると下の図のようになります。
2.みなし配当が適用されない特例
相続等により取得した株式については、株式の分散化を防ぐ趣旨から、次の特例が設けられています。
「相続開始の翌日」から「相続税の申告期限から3年経過日」までに一定の要件を充足して発行会社へ譲渡した場合は、みなし配当課税は適用されません。すべて通常の株式の売却と同じように譲渡所得として約20%の税金が課され、課税関係が終了することになります。また、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例も適用できます。他の所得との兼ね合いもありますが、保有する希望のない非上場株式については、相続直後に発行会社に売却をすると税負担の面で有利になることがあります。3.譲渡時の課税関係の注意点
株式を時価ではなく、無償又は著しく低い価額で発行会社へ譲渡した場合はどうなるのでしょうか。
(1)売主個人の課税関係
まず売主個人の譲渡の課税関係を考えますと、会社から受け取る金額が時価の2分の1未満の場合は、所得税法上、低額譲渡の規定が適用され、時価で譲渡したものとみなされます。
したがって、割安でも良いからと時価の2分の1を下回る金額で譲渡すると、次のようになります。【例】
時価10,000万円(出資金相当額1,000万円)の株式を4,000万円で譲渡した場合、
4,000万円-1,000万円=3,000万円」(配当所得・総合課税)となります。
更に時価で譲渡したものとみなされるため、「(10,000万円-3,000万円)-1,000万円=6,000万円」が株式の譲渡所得として税金が計算されます。
この様に場合によっては高い税金を支払うことになりかねませんので注意が必要です。
(2)既存株主の課税関係
会社が時価より低額(無償含む)で株式を買取ることで、既存株主は出資持分の増加という利益を享受することとなります。この場合は、既存株主にも課税関係が生じます。
【例】
株式の時価総額10,000万円(発行済株式5株、一株当たり株価2,000万円)の株式のうち、1株を同族会社が無償で取得した場合、
既存株主の株価は、10,000万円÷(5株-1株)=2,500万円となります。
無償取得前後で株価が500万円増加し、出資持分も増加しています。売主以外の既存株主が一人の会社の場合は、500万円×4株=2,000万円の経済的利益をその既存株主が得ることになり、この利益に対して贈与税がかかります。
4.補足
一般に第三者が相手の取引であれば合意した価額が時価とみなされます。しかし、同族会社との取引においては、市場が形成されていないため、国税庁の通達を基に算定した株価を税務上の時価とみなして税金を計算します。
株式に関する税制は非常に複雑であり、今回の事例の様に単純なものだけではないため、ご興味がある方は是非弊社にご相談下さい。2023年4月14日
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263号
幼児への贈与は大丈夫?
相続税の節税として、贈与を活用するのは世間の常識となっています。税制改正により、令和6年1月1日以後の贈与から相続開始前の贈与加算が段階的に7年に延長されるため、節税のための贈与はより早く行うのが効果的です。
子や孫が生まれてから、贈与税(暦年贈与)の基礎控除110万円を活用すれば、18歳で成人するまでの間、無税で約2千万円を渡すことができます。そこで、幼児への贈与についてご説明します。1.贈与が成立するには
贈与は、無償(タダ)で資産を移転する契約をいいます。贈与の効力が生じるのは、贈与者が自分の財産を無償で相手方にあげることを伝え、もらう人が承知した場合です。つまり、あげる人ともらう人の双方の合意があってはじめて贈与が成立します。
2.税務署が認めない贈与は
税務署が認めない贈与は、贈与が成立していない場合です。たとえば、親が子の名義で作った預金の場合、以下のような理由から、その預金は親子間で「あげる」「もらう」の合意がなく贈与が成立していないと判断されると、名義が子であっても親のものと判定されます。このような預金を「名義預金」といいます。
・通帳、カード、印鑑を贈与者(親)が管理している。
・子がその預金の存在を知らない。3.幼児への贈与は大丈夫?
幼児は、贈与が成立するための意思表示や財産管理ができないから、贈与が成立しないのではという疑問が生じます。
結論から言えば、幼児に対する贈与はできます。なぜなら、未成年者の場合、親権者が法定代理人となるからです(民法824条)。つまり、両親が、幼児である子に代わって贈与を承諾し、子が受けた贈与財産として管理していけばよいのです。4.贈与契約書は必要なの?
贈与は口頭でも成立するので、身内で贈与契約書を作るのは堅苦しく感じます。しかし、将来の親族間トラブル防止や税務署に「名義預金」といわれないよう贈与契約書を作ることは重要です。たとえば、相続が発生したとき、幼児が大きな金額の預金を持っていると、税務調査を受ける可能性が高くなります。そんなときに、贈与契約書があれば、贈与成立を証明するため非常に有効です。署名押印のある贈与契約書を作成した上で、契約通りに財産が移っていれば、特殊な事情がない限り、贈与契約は成立しているとみます(民訴228条④)。税務署が、その贈与を成立していないとひっくり返すことはまず無理です。
5.口座振込をお勧めします
贈与契約書は作ったけれども、実際には契約通り財産を移していない場合などは、税務署から契約の真実性を疑われ、贈与が成立していないと指摘される恐れがあります。そのような意味では、記録が残らない現金で贈与するよりも記録の残る口座振込で贈与するほうが間違いありません。
6.贈与税の申告や納税はどうするの?
贈与税(暦年贈与)は、1年間に基礎控除額110万円を越える財産の贈与を受けた場合に申告が必要になります。贈与を受けた人が幼児であっても申告・納税をしなければなりません。実際には、親権者が代理人として申告と納税の手続きを行うことになります。
この場合の贈与税は、贈与を受けた幼児の負担となることにご注意ください。税金の支払いであっても、負担者が違えば贈与税の対象になってしまいます。7.贈与を受けた子が成人したら
名義人である子が預金の存在を知らないまま、通帳を管理していた両親が亡くなってしまうと、贈与は成立していないとみられ、その預金は管理していた両親の相続財産になってしまいます。遅くとも子が成人するまでには、預金の存在を伝えて管理方法を親子で話し合いましょう。
8.まとめ
幼児への贈与はできます。しかし、せっかく子のためにコツコツ貯めてきたお金が、子の財産とは認められず、贈与税や相続税といった税金の対象となっては苦労が水の泡になってしまいます。
贈与契約書の作成や親権者としての財産管理方法など、不安やお悩みのことがあれば、当事務所にご相談ください。2023年3月16日
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262号
令和5年度税制改正の概要
令和4年12月16日に令和5年度の税制改正大綱が発表されました。今回は税制改正の主要項目のうち、特に注目すべき点をご説明します。
1.暦年課税における相続開始前贈与加算の見直し
資産移転の時期に対する中立性を高めていく観点から、相続財産に加算される贈与の期間につい
て、令和6年1月1日以後の贈与から次の見直しが行われます。(1) 加算期間の延長 相続財産へ加算される贈与は、相続開始前7年間(現行3年間)に延長されます。
※1 令和9年1月以降、加算期間は順次延長
※2 加算期間が7年間となるのは令和13年1月以降(2) 延長期間の加算額調整 延長される4年間(相続開始前3年超7年以内)に受けた贈与については、総額100万円まで相続財産に加算しないこととされます。 2.相続時精算課税制度の見直し
(1) 110万円の基礎控除の導入
令和6年1月1日以後の贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税より、相続時精算課税で受け
た贈与は、暦年課税の基礎控除110万円とは別途、毎年110万円まで非課税とされます。
※1 暦年課税分と合わせると基礎控除は最大220万円
※2 複数の特定贈与者から贈与を受けた場合は、110万円を各贈与額に応じ按分
(2) 土地建物が災害で被害を受けた場合の再評価の導入
令和6年1月1日以後に生じる災害により、相続時精算課税で贈与を受けた土地建物が、一定以上の被
害を受けた場合は、相続時において評価額を再計算することができるようになります。3.特定の事業用資産の買換えの見直しと延長
既成市街地等の内から外への買換え(1号買換え)が適用対象から除外されます。また、コロナ禍
からの経済社会活動の回復を確かなものとし、土地の有効活用による投資促進と不動産市場の活性化
のため、長期(10年超)所有の土地建物等からの買換え(4号買換え)は、譲渡益の課税繰延割合を下
記の通り見直した上で、適用期限が3年間(令和8年3月31日まで)延長されます。
・地方から東京23区への本店又は主たる事務所の移転を伴う買換え 70%から60%に引き下げ
・東京23区から地方への本店又は主たる事務所の移転を伴う買換え 80%から90%に引き上げ4.相続空き家に係る譲渡所得の特別控除の拡充・延長
令和6年1月1日以後の譲渡から、次の見直しを行った上で、適用期限が4年間(令和9年12月31日まで)延長されます。
(1) 適用要件の見直し①家屋の耐震リフォーム又は②家屋の取壊しは、売主にて行う必要がありますが、売主の負担感が
強いこともあり、譲渡年の翌年2月15日までに①又は②の要件を満たせば良いこととされます。
(2) 特別控除額の見直し相続人等による共有の場合、現行は、1人当たり3,000万円まで控除できますが、相続人等が3名以
上の場合は、2,000万円までが限度とされます。
5.適格請求書等(インボイス)保存方式にかかる見直し
(1) 消費税の納税額についての負担軽減措置
免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をした場合の負担軽減を図るため、令和5年10月1日から
令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者が適格請求書発行事業者となった
こと又は課税事業者選択届出書を提出したことにより課税事業者となった場合には、申告時の選択によ
り納付税額を売上に対する消費税の2割とすることができるようになります。
(2) 1万円未満の課税仕入れに係る経過措置
インボイス制度における仕入税額控除の適用にあたっては、金額の多寡にかかわらず、原則として取
引の相手先からインボイスを取得・保存する必要があり、事務負担の増加が懸念されていました。そこ
で、基準期間(2期前)における課税売上高が1億円以下又は特定期間(前期の上半期)における課税売
上高が5,000万円以下である事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に国内において
行う課税仕入れについて、支払対価の額が1万円未満である場合には、インボイスの保存がなくとも一
定の事項が記載された帳簿のみの保存による仕入税額控除を認めることとされます。6.極めて高い水準にある高所得者層に対する負担の適正化
税負担の公平の観点から、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化を図るため、令和7年分所得税より、次の②が①を上回る場合に限り、差額分を申告納税する新たな措置が設けられます。
① 通常の所得税額※1
②(合計所得金額※2-3.3億円)×22.5%
※1 分配時調整外国税相当額控除及び外国税額控除の控除前の所得税額
※2 確定申告を要しない配当所得等の特例及び上場株式等の譲渡による所得の特例を適用しな
いで計算した合計所得金額(源泉分離課税及び非課税の所得は含まない。)7.その他の主要な改正項目
2023年3月2日
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261号
税金安夫の税務講座
外貨建て取引による為替差益に関する税務
~外貨預金とFXを中心として~昨年は円安が進んだ一年でした。年初の1ドル115円が10月には150円を超えた日も。円安が進むのならドルを買っておけばよかった、と思うのも後の祭りです。今回は、外貨建て取引による為替差益に纏わる税務のお話です。
1.為替差益は‟雑所得”で総合課税
財産の持ち方ですけど、今後の日本や世界の情勢は不透明のため、リスク分散が必要と思い、預金の約30%をドル預金とし、株式の約70%を米国株にしています。
昨年は円安が進みましたね。お持ちのドル預金ですが、円転しましたか?
一部ですけど、30,000ドルを1ドル140円で。購入時は、確か1ドル100円くらいだと記憶しています。
そうすると為替差益は約120万円ですね。
(140円-100円)×30,000ドル=1,200,000円税金はどうなりますか?
為替差益は雑所得で総合課税。給与所得や不動産所得と合算して課税されます。安夫さんの最高税率は、所得税と住民税で合わせて約50%。半分が税金ですね。
儲けた割に手取りは少ないですね。残念。一方、株ですが、米国の株式も売却しました。一般口座で保有していたので、譲渡税の申告も必要になりますよね。
2.株式の譲渡における為替差益の取扱いは?
FRB(連邦準備理事会)による利上げの影響で、昨年の米国株式市場は下落基調でしたよね?
実は、新型コロナの影響で株価が急落した2020年に買っておきました。米国T社を1株40ドル、100株で4,000ドルでした。当時は1ドル105円でした。
オーナーが著名な米国T社。急成長しましたね。
一時は1株300ドルを超えました。でも下落してきたので、昨年の10月に240ドルで売却しました。売却時は、円安になっており1ドル145円でした。
1株40ドルが240ドルに値上がりして、さらに円安も加わったので、かなり儲かりましたね。
株価上昇による売却益と円安による為替差益。売却益部分は税率約20%の申告分離課税、為替差益部分は総合課税で、私の場合は税率約50%だから……。
税務ではそのような計算はしませんね。購入や売却の都度、円換算をします。1株240ドルで100株を売却し、売却時レート145円で円換算するので、譲渡収入は348万円ですね。
240ドル×100株×145円=3,480,000円(①)
1株40ドルで100株を購入し、その購入時レート105円で円換算するので、譲渡原価は42万円ですね。
40ドル×100株×105円=420,000円(②)
証券会社への手数料は省略するとして、売却益は306万円(①-②)になります。適用される税率は約20%で、譲渡税は62万円程度ですね。実質的に為替差益と考えられる部分についても税率20%の課税で済んでしまうのですね。
そうですね。1ドル当たり145円から購入時の105円を引いて40円の差益。4,000ドルでは16万円になり、この部分は実質的には為替差益と言えますね。
(145円-105円)×4,000ドル=160,000円本来の為替差益であれば総合課税の雑所得。でも、外国株投資では、為替差益部分も含めて売却益扱いになり、20%の税率で済む点はメリットですね。
3.為替差益も税率20%の申告分離課税にできる!!
為替相場や株価は変動します。儲かることもあれば損をすることもあります。損失となった場合に、利益との通算や損失の翌年への繰越しができるか否かも重要になります。
為替差益が雑所得ということは、円高が進み、為替差損となってしまった場合はどうなりますか?
公的年金など他の雑所得の範囲内で通算できます。しかし、通算しきれない損失は切捨てです。
上場株式の売却損は、翌年以降に繰り越せるようですけど、外国株式の売却損でも繰り越せますか?
外国市場で取引されている外国株に限り、一定の金融機関を通じて取引をすれば繰り越せます。
雑所得内で通算しきれない為替差損は切捨てになり、翌年に繰り越せない点がデメリットですね。
国内の指定業者でのFX(外国為替証拠金取引)を活用すれば、株式の譲渡と同様に税率約20%の申告分離課税で、損失は3年間の繰越しが可能です。
レバレッジをかける取引(少ない元手で大きな取引が可能)ですよね。儲かればいいですが、損をするとひどい目に遭いますよね。
詳細は省略しますが、レバレッジを「1倍」にしておけば、通常の為替差損益と同じですね。
4.おわりに
外貨預金の利息は税率約20%の源泉分離課税(申告不可)、為替差益は総合課税で、損失の繰越しはできません。一方、レバレッジ1倍のFXについては、利息(スワップポイント)も為替差益も税率約20%の申告分離課税で、損失は3年間繰り越せます。所得状況に限らず約20%の固定税率で、かつ、損失も繰り越せる点は、FX取引のメリットになります。総合課税で適用される税率が高い方は、一考の価値があるかもしれません。
2023年1月13日
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260号
土地売買における消費税の注意点
~予想外の税負担を減らすために~不動産を売買して譲渡益が生じる際に、譲渡益に対して所得税や法人税を納める必要があります。そのほか、消費税を納める課税事業者であれば、建物を売買した場合には消費税を納める必要があります。なお、土地の売買では消費税は非課税ですが、消費税の計算方法によっては、例年と比べて消費税の負担が増える場合もあります。そこで、今回は、土地売買における消費税の注意点について触れたいと思います。
1.消費税の計算方法(1)個別対応方式
消費税の納税額は、原則としては、預かった消費税から支払った消費税を控除して計算をします。控除する消費税額の計算は、原則、「個別対応方式」により行います。この方式は、支払った消費税を次の(ア)~(ウ)に区分した上で、控除する消費税額を次の算式で求めます。
控除する消費税額 = (ア) + (イ) × 課税売上割合
(ア)課税売上のみに対応する支払った消費税額
(イ)課税売上と非課税売上に共通して対応する支払った消費税額
(ウ)非課税売上のみに対応する支払った消費税額
この算式の意味するところは、消費税が課税となる収入を得るために支払った消費税(ア)はすべて控除できますが、土地売買のように消費税が非課税となる収入を得るために支払った消費税(ウ)は控除できません。また、課税と非課税の両者に共通する支払いに係る消費税(イ)は、次で説明する「課税売上割合」に応じて控除することになります。
(2)課税売上割合
課税売上割合は、次の算式で求めます。
課税売上割合 = 課税売上高(税抜き) ÷ 総売上高(税抜き)
課税売上割合とは、収入全体に占める消費税の課税対象となる収入の占める割合です。土地売買は消費税が非課税ですから、上記算式の総売上高には含まれますが、課税売上高には含まれません。そのため、土地売買があるときは、通常の場合に比べ課税売上割合が低くなり、その結果、控除できる消費税が減少することになります。
(3)一括比例配分方式
上 記(1)の個別対応方式に掲げた(ア)~(ウ)の区分をせず、支払った消費税額に上記(2)の課税売上割合を乗じて控除税額を計算する「一括比例配分方式」を採用することもできます(採用すると2年間の継続が必要)。
控除する消費税額 = 支払った消費税額 × 課税売上割合
この方法は、支払った消費税のすべてについて課税売上割合に応じた金額を控除するものですから、土地売買があると、控除税額が大幅に減少するリスクがあります。
2.その他の消費税の計算方法消費税の計算方法の原則は、前記1のとおりですが、他の方法として、中小企業者の納税事務負担に配慮した「簡易課税制度」もあります。この方式は、2年前の課税売上高が5,000万円以下であり、かつ、年度開始日の前日までに「簡易課税制度選択届」を提出する必要があります。詳細は省略しますが、この制度は、消費税のかかる課税売上高に一定の控除率を乗じて控除税額を計算しますから、土地売買のように消費税が非課税となる収入による影響はありません。
3.土地売買における注意点土地売買があると課税売上割合が下がるリスクがあることを前記1で説明しました。そのため、土地売買については、次の制度を適用することが認められています。
(1)たまたま土地売買があった場合
土地売買が単発であり、かつ、その土地売買がなかったとした場合には、事業実態の変動がないと認められる場合には、税務署長の承認を得ることにより、課税売上割合に代えて次の(2)に掲げる「課税売上割合に準ずる割合」により、消費税の控除税額を計算することができます。手続きとしては、土地売買をした年度の末日までに「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出して、同日の翌日以後1ヶ月を経過する日までにその承認を受ける必要があります。
(2)「課税売上割合に準ずる割合」とは
課税売上割合に準ずる割合とは、次の(A)又は(B)の割合のいずれか低い割合とされています。
(A) 土地の売買があった前3年度の通算課税売上割合
(B) 土地の売買があった前年度の課税売上割合
この制度の適用により、たまたま土地売買があり課税売上割合が減少しても、前年度以前の課税売上割合を用いて消費税の控除税額を計算できます。該当する場合は、是非活用したいところです。
4.最後に消費税を納める課税事業者で土地を売買する方は、まずは、どのような方法で消費税を計算しているか確認する必要があるでしょう。そのうえで、原則的な方法で計算している場合には、予想外に消費税の負担が増える可能性があるため税理士へ相談することをお勧めします。しかし、前記3の申請書は土地の売買のあった年度の末日までに税務署へ提出する必要があるため、年度末ギリギリで売買してそれから相談するのでは間に合わないかもしれません。これから土地の売買を予定している方でも、予定が分かった時点であらかじめ相談するようにしましょう。
2022年12月15日