お役立ち情報
COLUMN
毎月職員が交代で執筆しています。
ただ、自分の順番が回ってくると、
その対応は様々です。
税務のプロとして、日頃の実務や研究の成果を
淡々と短時間にまとめる者、
にわか勉強で急に残業が増える者、さて今月は…
年度:
タイトル:
-
247号
会社を設立する場合の形態について
個人で多くの不動産を所有しているような場合、所得分散効果などから法人化を検討するのは自然な流れです。そしていざ法人設立を決意した際にどの法人形態にすべきか逡巡することもあると思われます。法人には様々な組織形態がありますが、今回は「会社」に焦点をあてて検討していきます。
1.株式会社と合同会社の特徴会社を設立するには、「株式会社」か「持分会社」のいずれかの形態を選択する必要があります。持分会社は合同会社・合名会社・合資会社に分類されます。このうち合名会社と合資会社は、原則として出資者は会社が倒産した時などに債務者に対して全責任を負うことになるためお奨めできません。したがって、株式会社と合同会社についてそれぞれの特徴をみていきます。
(1)株式会社
株式会社とは株式を発行する会社であり、出資者(株主)は出資比率に応じて会社の所有権を得ます。なお、出資者である株主が必ずしも経営を担う必要はありません。株主総会で選任された取締役が実際の経営を行うといった「所有と経営の分離」が特性となっています。もっとも知名度が高く、会社といえば株式会社を想見するのではないでしょうか。
(2)合同会社
合同会社は、2006年5月施行の新会社法により、有限会社に代わる会社形態として設けられました。米国のLLC(Limited Liability Company)を手本としたといわれ、米国では株式会社と同程度普及しているようです。意思決定の迅速さや設立費用の安さが特徴となっています。認知度は徐々に高まっており、2020年に設立された法人の総数118,999社のうち合同会社は33,236社と全体の1/4超を占めています。また合同会社の設立件数は直近10年で3倍を超える増加となっています(出所:e-Stat「登記統計 商業・法人 年次2020」https://www.e-stat.go.jp/stat-search/)。
(3)それぞれの比較
株式会社と合同会社の主な違いは下記のとおりです。
2.資産所有会社としての検討不動産を中心とした資産所有会社の設立を考えた場合、株式会社特有のメリット(株式発行による資金調達、社会的信用度、上場)の享受は大きくないのではないでしょうか。一方、合同会社は経営の自由度の高さ(出資比率に関係なく利益配分が可能)や設立・運営のコスト面(定款認証不要、決算公告不要)から株式会社1択でなく選択の余地はありそうです。ただし一点注意事項があります。合同会社が持分会社であるゆえの「資本と経営」の不可分原則です。不可分とは出資者(株主)と役員構成を切り離せないということです。すなわち役員になるためには出資が必要であり、役員を退任したい場合には出資持分を消滅させる必要があります。役員と出資が一対となっているため柔軟に役員を迎え入れることや、役員構成だけを変更することはできません。また、出資者の相続人がその地位を相続するためには、定款に相続時の持分承継の定めをすることが必要です。
3.組織変更について会社を設立したものの、やはり別の形態に変更したい場合には「組織変更」の手続きを行うことにより可能です。
(1)株式会社から合同会社への変更
(a)総株主の同意
組織変更計画書(組織変更後の商号、社員(出資者の氏名)その他一定の事項)を作成し、その内容について総株主の同意を得る必要があります。
(b)債権者保護の手続き
会社組織変更の旨を官報に公告することが必要です。これに合わせ、会社として認識している個別の債権者に対して催告(相手方に対して一定の行為をなすよう請求すること)する必要があります。
(c)組織変更後の設立登記
株式会社の解散登記及び合同会社の設立登記を行います。
(2)合同会社から株式会社への変更
(a)総社員の同意
組織変更計画書(組織変更後の商号、取締役の氏名その他一定の事項)を作成し、その内容について総社員の同意を得る必要があります。
(b)債権者保護の手続き((1)(b)と同様)
(c)組織変更後の設立登記
合同会社の解散登記及び株式会社の設立登記を行います。
4.最後に合同会社はシンプルな会社形態でありメリットも大きいですが、役員構成を変更したいなど「資本と経営の不可分」に抵抗がある場合は迷わず株式会社です。なお、株式会社には資本金規制(1.(3)の表)があります。資本金の取り決めは法人税の軽減税率や交際費の800万円までの損金算入特例など税制優遇の適用にも影響するので非常に重要です。設立後の組織変更も可能ですが手数がかかるので専門家に相談し慎重な選択をしましょう。
2021年11月15日
-
246号
税金安夫の税務講座
駐車場収入とインボイス制度
~免税事業者は課税事業者を選択するのか?~店舗・事務所や駐車場の賃料は、消費税の課税売上げ(消費税の対象)となることをご存知かと思います。課税売上げが年間1,000万円以下であれば、原則として免税事業者になり、消費税を納める義務はありません。消費税の仕組みとしては、免税事業者は消費税を受け取らないことになっています。しかし、実際は消費税を上乗せして受け取っている方も結構おられるのではないでしょうか。
今回は、令和5年10月から導入される日本版の"インボイス制度"への対応に関する質問のようです。
1.免税事業者とインボイス制度自宅敷地の一部を月極めの駐車場にしています。消費税は免税事業者ですが、実は、月額賃料30,000円に10%分の消費税を加え33,000円をもらっています。
駐車場の契約書に、消費税を受ける旨を記載していますか。
記載しています。市販されている様式で作ったものですから…。令和5年10月からインボイス制度が導入されるとかで、問題にならないか心配です。
消費税の課税事業者を選択すれば問題はありません。選択しないと問題となる可能性がありますね。
どんなケースですか?
借主が事業用車両を停めている場合です。賃料支払時に負担した消費税は、事業者の消費税の計算で控除します。原則課税の場合ですが、インボイスを受け取らないとその控除ができなくなります。インボイスとは、請求書や領収書に消費税の課税事業者であることを証明する"登録番号(Tで始まる13桁の数字…国税庁が発行しHPで公表)"などを記載したものです。
賃料は銀行振込です。駐車場の貸主は、請求書や領収書などのインボイスを発行しないですよね。
2."登録番号"などは賃貸借契約書に記載不動産賃料の場合は、賃貸借契約書に登録番号などの必要事項の記載があり、賃料が引き落とされた預金通帳を保存すればインボイス保存の要件を満たします。
令和5年10月に、インボイスの必要事項を記載した賃貸借契約書にまき直す必要がありますか?
まき直すか、あるいは、登録番号などの必要事項のみを追加する合意書を作成することになります。
話は戻りますが、課税事業者を選択しないと10%分の消費税を受け取れなくなるということですよね。
そうですね。でも、令和5年9月分までは33,000円、翌10月分から30,000円に減額するのであれば、消費税の課税事業者を選択して、簡易課税制度を活用する方が有利になります。
どういうことですか?
3.消費税の簡易課税制度の選択も一案不動産賃貸業の場合、簡易課税制度を選択することにより、みなし仕入率の40%分が控除できます。受け取った消費税3,000円の40%分の1,200円を控除することにより納税額は1,800円になります。
消費税込みで33,000円を受け取り、1,800円納税すれば手取りは31,200円。免税事業者として30,000円を受け取るよりは有利ということですね。
そうです。ただし、課税事業者を選択する場合は注意が必要となるときがあります。例えば、アパート経営も併せて行っている場合で、たまたまそのアパートを売却するケースです。アパート家賃は消費税が非課税で問題ないですが、アパート建物の売却代金は消費税の対象になり、多額の納税額が生じる可能性があります。売却予定がある場合には注意!!ですね。
アパート経営はしていないので、その点は問題ないです。
4.インボイス制度導入における経過措置インボイス制度に対する免税事業者の対応は以上のとおりです。しかし、実際は、令和11年9月まで経過措置があるため結構複雑です。
経過措置?? どのような内容ですか?
インボイスがなくても、一定金額の控除ができる措置です。控除できる金額は次表のとおりです。例えば、令和5年10月分から令和8年9月分の駐車場賃料については、安夫さんがインボイスを発行しなくても借主である事業者は、消費税3,000円の80%相当額の2,400円を控除できるというものです。
ということは、経過措置期間中はインボイスを発行しないことを条件に、受取額を33,000円から若干減額する交渉もありということですね。
5.おわりに(インボイス制度の検討事項)インボイス制度は、貸店舗や貸事務所が共有物件の場合も厄介です。共有者のうちに消費税の課税事業者と免税事業者がいる場合、現状においては、課税事業者は消費税の申告・納税をしますが、免税事業者はそれをしていません。このようなケースでは、免税事業者は課税事業者を選択せざるを得ないと考えられます。制度が導入されるのは2年後ですが、課税売上げがある免税事業者の方は、インボイス対策の準備を始めましょう。
2021年10月15日
-
245号
税務署は見ている
~相続時にチェックする預貯金の動きから分かること~私は、この3月まで30年間税務署に勤め、主に資産税(相続税・贈与税・譲渡所得)を担当していました。
税務署に勤めていたときの話は、公務員に課される守秘義務があってお話しできないこともありますが、今回は相続税調査のことをお伝えします。
1.相続税と相続税調査相続税は、毎年続けて申告していく所得税などと違い、一度きりのことなので、税務署では「生涯を通じた税金精算の最終機会」とも言われており、綿密に申告内容の確認がされます。
税務職員は、調査権限を持っているほか、提出を受けた申告書などの様々な情報を持っています。机上で、過去の所得税や贈与税の申告内容と比べて、被相続人の申告財産が少なくないか、相続人が自身の収入だけでは蓄積できない財産をもっていないかなどを検討します。
さらに、給料や土地売却代金の受取り、生活費や大きな買物の支払など、日々の生活が現れる預貯金の動きに注目し、被相続人だけではなく、相続人その他関係者の預金の動きを過去数年分遡って金融機関に照会します。
その上で、実地に調査を行うのですから、相続税調査は、申告漏れを指摘される割合が8割以上と高くなっています。
2.預貯金に関連する問題相続税は、相続開始のときにもっている被相続人の財産が申告の対象となります。
預貯金の大きな動きをチェックすることで、(1)名義預金、(2)貸付金や立替金という財産の問題で疑問が生じ、調査対象になる案件が多く見受けられます。この点は、私が税務署に勤務した30年間で大きく変わっていないように思います。
3.名義預金とは?税務上は、(1)もともと誰がお金を出したか、(2)その預金を誰が管理していたか、(3)贈与された預金かという点から判断し、申告すべき相続財産となるかが決まります。
親族間では、名義を借りて預金を運用することもありますが、基本的にはお金を出した人のものだということです。
例えば、「親が子供名義で作った預金」や「夫が生活費を入金していた専業主婦名義の預金」は、贈与されていなければ、名義人である子(妻)ではなく、お金を出した親(夫)の預金だと判断されることになります。
このように、名義預金は、名義人と実際の所有者が異なる預金をいいますので、名義のみで申告財産を判断すると、調査官に手痛い指摘を受けるかもしれません。
4.貸付金・立替金とは?親族間で預金を動かしたときは、お金を出した人と受け取った人との約束に従い(1)贈与、(2)貸付け、(3)立替えなど、その内容が変わってきます。この際の約束は、法律上、口頭でも文書でもよいとされています。
贈与のときは、非課税である生活費など贈与申告の対象外となる部分を除き、お金を受け取った人が贈与税の申告をする必要があります。申告していない贈与は、相続のタイミングで、預貯金のチェックが行われてばれることがほとんどです。
一方で、借入をしたときや代金の立替えをしてもらったときは、その金額に見合うお金を返済しなければならないので、返済が完了していなければ、被相続人からみて貸付金や立替金が相続財産となります。
5.贈与を受けたかは申告で決まるものではないけどこのように相続税は、名義などの外観だけで判断される訳ではなく、その実質に合わせて相続税の申告財産になるかが決まります。
しかし、相続税の調査では、被相続人との10年近く前のお金のやりとりなどを聞かれることもあります。実質に合わせてといっても、人の記憶は時間の経過とともに劣化し、時には記憶は失われてしまうこともありますし、話を聞きたいときに被相続人はいないという状態で、はっきりしないことが多々あります。
贈与を受けたかは贈与税の申告の有無だけで決まるものではありませんが、仮に、名義預金や親族間で預金を動かしたときに、実際には贈与だったとしても、贈与税の申告をしていなければ、貸付金や立替金として相続税の申告漏れの指摘を受けるかもしれません。
修正申告となれば、本来は払う必要の無かった加算税や延滞税を相続税に上乗せして支払わなければならなくなります。
6.まとめ預貯金の動きは、税務署が最も注目しており、親族名義を含めほとんど把握されていると考えるべきです。
親族名義を借用して財産管理をすることや、曖昧な約束でお金を動かすことは、将来に無用なトラブルを招く恐れがあります。
相続税の負担軽減や納税資金の準備を的確に行うためには、少なくとも預貯金に関しては財産を残す側、引き継ぐ側の双方が連携し、適切な対策を講じていく必要があるのではないでしょうか。2021年9月15日
-
244号
駐車場用地における税務の取扱い
~土地をコインパーキング業者へ賃貸する場合~未利用地は直ぐに換金化できるため、将来の相続税の納税資金用として保有する方もいらっしゃるようです。しかし、固定資産税などの維持費がかかることもあり、とりあえず駐車場用地として活用することが考えられます。そこで、今回は未利用地を駐車場用地として活用する場合の税務の取扱いについてご紹介します。
1.駐車場としての利用パターン駐車場としての利用には、(a)自分で駐車場を営む、(b)土地を業者に貸して、業者が駐車場設備を設置して駐車場を営む(以下「土地貸し」という)、(c)土地にアスファルトなどの構築物を設置した上で業者に貸して、業者が必要に応じ駐車場設備を設置して駐車場を営む(以下「構築物付の土地貸し」という)、の3つのパターンが考えられます。
近ごろは、コインパーキング用地として、(b)の土地貸し又は(c)の構築物付の土地貸しをされている方が多いようです。個人の場合、いずれの賃貸収入も不動産所得となりますが、消費税や個人事業税では異なる取扱いとなる場合がありますので、以下においては税務上の相違点について取り上げます。
2.消費税の取扱い(1) 土地貸し(上記1.(b))の場合
土地に施設として何ら手を加えられていないときの土地の使用は、土地の貸付けに含まれます。 土地の貸付けは、消費税の非課税売上げとして取り扱われるため、賃貸収入部分に対する消費税を納める必要がありません。(2) 構築物付の土地貸し(上記1.(c))の場合
駐車場設備の貸付けとなり、消費税の課税売上げとして取り扱われます。よって、その他の消費税の課税売上げと合計して年間1千万円を超える場合には、消費税の納税義務者となるため、賃貸収入部分に対する消費税を納める必要があります。
3.個人事業税の取扱い「駐車場業」に該当すると個人事業税を納める必要があります。駐車場業に該当するか否かについては、(b)の土地貸し及び(c)の構築物付の土地貸しの場合のいずれにおいても、次のように取り扱われています。
(1) 駐車可能台数が10台未満の場合
駐車場業に該当しないため、駐車場用土地の賃貸に係る所得について個人事業税を納める必要がありません。(2) 駐車可能台数が10台以上の場合
駐車場業に該当し、駐車場用土地の賃貸に係る所得の金額と他の事業所得及び不動産所得と合計して年間290万円を超える部分の所得に対して、税率5%の個人事業税を納める必要があります。
以上のとおり、一般には、駐車スペースが10台以上(ただし建築物内の駐車場は1台以上)あると個人事業税の駐車場業とされています。しかし、(b)の土地貸しの場合は、単なる土地の貸付けですので、駐車場業と言えるか疑義がありました。この点について、東京地裁は、以下の理由で駐車場業には該当しないとして、個人事業税の課税を取り消す判決を下しました(令和3年3月10日)。
・管理運営は業者の責任で行っており駐車場に関する貸主は経営のリスクは負っていない。
・駐車場の稼働状況に関わらず貸主は毎月定額の賃料収入を得ている。
この判決によって、個人事業税の駐車場業に係る取扱いが変更されるかどうかは明らかではありませんが、今後の動向に注意する必要があります。
4.相続税の取扱い被相続人の相続財産の相続税評価額の合計額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、相続税の申告義務が生じます。
(b)の土地貸し及び(c)の構築物付の土地貸しの場合のいずれにおいても、駐車場用地が構築物(業者が設置した場合を含む)の敷地となっていれば、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(最大200㎡までの部分について50%の評価減)の対象となります。適用に当たっては、駐車場用地を相続した相続人が相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)までに被相続人の賃貸事業を引継ぎ、かつ、申告期限までその土地を保有していることが要件となります。相続税の小規模宅地等の特例では、(b)の土地貸しも(c)の構築物付の土地貸しの場合も適用対象である点に相違はありません。
なお、駐車場用地が更地(アスファルトや駐車場設備などの設置なし)の場合には、小規模宅地等の特例の適用対象ではありません。
5.まとめ一般的には、構築物付の土地貸しの場合の方が、単なる土地貸しよりも賃貸収入は多く得られると思います。
しかし、その反面、初期投資費用がかかることや消費税の対象となる点からすると、単なる土地貸しの方が負担は少ないといったメリットもあります。
よって、これから未利用地をコインパーキング用地として活用しようとしている方は、賃貸収入だけで考えてはいけないでしょう。支払う税金もしっかりと考慮した上で、どのような貸付方法とするか検討されてはいかがでしょうか。2021年8月13日
-
243号
金・骨董などその他の相続財産
~百貨店の外商取引から財産が判明!!~相続税を申告する場合、不動産や預貯金・上場株式などの金融資産については、まず申告漏れはないと思います。しかし、申告が必要な資産はそれ以外にも色々な種類があります。今回は、意外と申告漏れが多い資産や税務調査の時に指摘されやすい資産について説明致します。
1.意外と人気の金近年価格が上昇している資産として金があります。金は昔から価値あるものとされ人気があります。不動産と異なり所有していても固定資産税はかかりませんし、換金しやすいため遺産分割時にも困りません。ただ、相場による価格変動があるため、換金時期によっては取得時期より価格が下がり損をすることもあります。
2.支払調書そんな使い勝手の良い金は、昔は財産隠しの定番として有名でした。残念ながら現在は200万円超の取引は自動的に税務署へ連絡(支払調書)がいきますので、申告をしないと必ず税務署からお尋ねがくるでしょう。金は隠せる!はもう昔の話です。
3.相続税の申告時に注意すべき点ここでは、金を所有している場合、相続税の申告時にどのような点に注意すれば良いか実際の調査事例を基に話を進めていきます。被相続人は生前金の購入をしていたとの相続人の話から取引があった金の取引業者へ残高照会を行いました。その結果、残高はゼロ。過去5年間の取引履歴も無しとの回答でした。ご自宅に現物の金もないことから、金について相続財産に計上することなく申告をしました。
4.税務調査がやってきて相続税の申告を終えてやれやれと思っていたところ、税務調査がやってきました。税務調査官は、色々と既に調べてきていて、相続人へ金のことを確認してきました。こちらとしては、既に金の取引業者に残高確認や過去の取引履歴まで確認を終えていたので、自信満々に対応しました。しかし、税務署は思わぬところから取引履歴の証拠をつかんで提示してきたのです!
5.外商取引から金の取引がばれる!?なんと、税務署は百貨店の外商取引履歴から金の購入を突き止め、現物確認を要求してきたのです。被相続人は確かにその百貨店の外商取引を利用していました。相続税申告書作成時に、高額な商品の取引が無いか取引履歴の確認も行っていたのに、金の取引については照会内容にはでてきていませんでした。こちらも合点がいきません。調査官に尋ねると、外商担当者が相続人へは提示しなかった特別な取引履歴について税務署に開示していたのです。その取引履歴には、取引日、購入内容、購入者、購入者の署名など詳細なデータが載っていたのです。この特別な取引履歴は外商部のデータには反映されない、担当者預りの特別な取引とのことでした。金の購入後売却履歴もないことから、金を所有していると考えられるので、相続財産として申告が必要になるとのこと。こちらも益々混乱。金の取引業者に対する照会で取引履歴がでてこなかったのは、百貨店の外商へ金を卸しただけで、外商が誰へ売却したかは取引業者のあずかり知らぬところだったのです。そうは言っても、肝心の金の現物が見当たらない。税務署との折衝が困難を極めました。
6.何故、外商取引がわかったのかそれにしても、何故税務署がその百貨店の外商との取引がわかったのか、不思議に思いました。それは、相続後の相続人の預金の振込履歴から判明したのです。前述しましたが、相続税申告書作成時に取引履歴を取り寄せたので、その手数料の支払いから取引があることがわかってしまったのです。念入りに事前調査した結果が思わぬ波紋を引き起こすことになったのです。被相続人だけでなく、相続人の預金の動きも念入りに調査しているのです。
7.預金の動きは情報の宝庫被相続人の預貯金の動きをチェックすると、貸金庫の手数料やトランクルームの保管料の引き出しがあります。貸金庫が調査時点で残っていれば、調査官は必ず中身を確認します。メモ1枚、銀行の振込票1枚からあらゆる取引を想定し、相続人に確認を求めます。トランクルームを契約しているのであれば、そこに何を(例えば絵画とか)保管しているのか、必ず確認を求めます。
8.骨董品も外商経由で購入この被相続人、骨董品・絵画の収集も趣味で他の百貨店の外商から色々と購入していました。そのため、相続時には専門家へ鑑定評価を依頼し、きちんと相続財産として申告をしました。百貨店の外商は本当に色々な商品を用意して奨めてきます。小口のものから大口のものまで種類は様々です。コロナ禍でステイホーム期間中の今、外商取引が増えていて、益々外商取引の確認が重要に思えます。
9.把握が困難な新しい資産も不動産は課税通知書、金融資産は取引報告書などが送られてくることから、財産の把握が出来ています。しかし、最近はネット取引の時代、管理の仕方も紙ベースから電子データのみへと移行しています。被相続人が相続人達に内緒で取引をしていると財産の存在自体わからなくなってしまう可能性は大きいです。被相続人のメールを確認し、どのような業者と取引をしているのか、今後は新たな確認が必要になるでしょう。
2021年7月15日
-
242号
消費税のインボイス制度
~消費税の納税義務者になる?~令和5年10月1日から、消費税の仕入税額控除に適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が導入されます。この制度の導入により、不動産賃貸業にどのような影響が出るのでしょうか。
1.消費税の計算方法とは消費税は、納税義務がある事業者とない事業者に分かれます。納税義務がある事業者とは、一般には前々年(法人の場合は前々期)に消費税のかかる売上が1,000万円超ある事業者を言います。不動産賃貸業の場合、店舗、事務所、駐車場等の賃料に消費税がかかります。そのため、物件のほとんどが居住用のケースでは、消費税の納税義務がない事業者(免税事業者)に該当している方も多いと思います。
消費税の納税額は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて計算します。不動産賃貸業の場合、テナントからの家賃や駐車場賃料と一緒に預かる消費税から、修繕費、管理費等にかかる消費税を差し引いて納税額を算出します。
2.適格請求書等保存方式とは現行において、支払った消費税の控除を受けるためには、帳簿への記載と請求書等の保存が必要です。請求書等とは、請求書、納品書、領収書、レシート等で、取引年月日、取引金額、取引内容、支払先及び支払者の名称等が記載された書類をいいます。食品等の軽減税率導入後は、その対象と税率ごとに合計した取引金額の記載も必要になりました。
令和5年10月以降は、原則として、支払先から「適格請求書」の交付を受けて保存する必要があります。適格請求書の交付は、「適格請求書発行事業者」に限られ、課税事業者が税務署長に申請した上で、登録を受けなければなりません。登録を受けると登録番号が交付され、国税庁のホームページに公表されます。「適格請求書」には、上記の請求書等の記載内容に加え、税率ごとに区分した取引金額とその消費税額及び登録番号の記載が必要になります。
今まで免税事業者に該当し、消費税を納税しなかった事業者が適格請求書発行事業者になるには、まず課税事業者を選択して消費税の納税義務者となり、その上で登録申請をする必要があります。
令和5年10月1日以降、免税事業者への支払いに係る消費税の控除は、徐々に制限がかかることとなります。同日から3年間は、支払った消費税の80%を控除することができ、令和8年10月1日から3年間は支払った消費税の50%の控除となり、令和11年10月1日からは全く控除できなくなります。
3.適格請求書を発行しないことの影響免税事業者を継続したり、適格請求書発行事業者に登録せず、適格請求書を発行しなかった場合、どのようなことが想定されるのでしょうか。事務所を賃貸するケースで考えてみます。
事務所の借主は、貸主に賃料を支払います。そこに含まれる消費税を、売上に係る消費税から控除して納税額を計算します。この賃料につき、貸主が適格請求書を発行しない場合、借主は賃料に係る消費税を控除することができなくなります。そのため、消費税相当額の値引きを要請したり、最悪の場合は退去することが想定されます。免税事業者は、インボイス制度導入までに課税事業者となるか、免税事業者のままで行くのか、その場合、今まで預かっていた消費税相当額をどうするのか検討する必要があります。
4.インボイス制度導入の背景消費税は、最終消費者が負担する税金で、事業者が消費者から預かって納付する方法をとっています。現行では、免税事業者は価格に消費税を上乗せしないことを予定しているのですが、実際には上乗せしているのが実情です。税務当局は、これを益税だとして問題視しています。今までは、小規模な事業者の事務負担の増加を考え、免税事業者を認めてきましたが、免税事業者に対する支払いは消費税を控除させないようにして、課税事業者となることを促し、益税の解消を目指しています。
では、課税事業者になることは損なのでしょうか。免税事業者が課税事業者になった場合は、今まで預かっていた消費税から支払った消費税を控除して納税することとなります。そのため、新たに消費税の納税は発生しますが、その差額だけを負担することとなり、本来の仕組み通りとなります。
5.インボイス制度導入に向けたご準備をインボイス制度導入に係る事業者の方針によっては、賃貸借契約書、特に賃料に係る消費税部分の見直しが必要になるかもしれません。適格請求書発行事業者の登録は、原則として令和5年3月31日が申請期限となります。それまでに、消費税とどのように関わっていくか検討する必要があります。
2021年6月15日
-
241号
居住用賃貸建物に係る消費税の取扱い
~令和2年度改正の重要ポイントの確認~居住用の賃貸建物の建築又は購入の際に支払った消費税については、これまでその還付を受ける方法がありました。しかし、令和2年度の税制改正により、令和2年10月以後の居住用の賃貸建物の取得に係る消費税については、原則として、全く還付を受けられないこととなりました。
今回はその改正の経緯・内容と注意点について説明いたします。
1.消費税の仕組み(1)原則的な方法
支払った消費税の還付を受けるためには、「預かり消費税」より「支払った消費税」が多い必要があります。ただし、支払った消費税のすべてが、消費税の計算で控除できるわけではありません。居住用の賃貸建物の取得の際に、建物の本体価格に対して消費税が課される一方、その賃貸建物に係る住宅家賃収入は消費税が非課税です。預かり消費税がないと支払った消費税の控除はできないというのが消費税の基本的スタンスです。したがって、居住用の賃貸建物に係る消費税は、還付を受けられないのが原則です。
(2)そこで使われた特例 〜一括比例配分方式〜
消費税の控除に関し「一括比例配分方式」の特例があります。これは、支払った消費税の全額に、売上全体に対して消費税が掛かる売上が占める割合(課税売上割合)を乗じた額の消費税を控除するものです。これを選択すると、本来の原則計算では控除できない消費税でも、この特例により控除できる場合があります。飲料水等の自動販売機を設置し課税売上割合を増加させる方法も知られていますが、最近は金の取引に消費税が課されることに着目して、金の売買を繰り返して課税売上割合を増加させ、消費税の還付額を増やす方法が盛んに行われたこともあり、問題視されていました。
2.居住用賃貸建物に係る令和2年度改正これまでの度々の税制改正で、消費税の還付スキームの封じ込めが図られてきました。しかし、いたちごっこが続いたこともあってか、そもそも居住用賃貸建物に係る消費税は、そのすべてが控除できないように改正されたのです。
3.居住用賃貸建物とは消費税の控除ができなくなった「居住用賃貸建物」とは、次の(a)と(b)のいずれにも該当する建物をいいます。
(a) 住宅の貸付けの用に供する建物(その附属設備を含みます。)(※1)
(b) 一つの取引単位につき、消費税抜きの本体価額が1,000万円以上
(※1 全てが店舗である建物などその構造や設備等の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物は除かれます。)
4.店舗併用住宅の取扱い店舗併用住宅の場合は、いくつかの注意が必要です。基本的には店舗部分に係る消費税については、従前のとおり還付の対象になります。住宅部分に係る消費税については、還付の対象になりません。店舗部分の消費税の還付を受けるための注意点としては、建設(購入)価額を店舗部分と住宅部分に合理的に区分する必要があります。例えば、1平方メートル当たりの建築価額に大きな差がなければ、建設(購入)価額を店舗部分の床面積と住宅部分の床面積で按分するなどの方法が考えられます。なお、按分したことによって、住宅部分の本体価額が1,000万円を下回ったとしても、建物全体の価額が1,000万円以上の場合は、居住用賃貸建物とされますのでご注意ください。
5.消費税の控除ができるケース居住用賃貸建物の取得のための支払いであっても、消費税の控除対象となるものがあります。
(1)建物価額以外の付随費用
居住用賃貸建物を購入する際に支払った仲介手数料は、建物の取得価額を構成します。しかし、居住用賃貸建物として消費税控除の対象とならないものは、あくまで建物本体に係る消費税に限られますから、仲介手数料などの付随費用に係る消費税は控除の対象となります。
(2)居住用賃貸建物に対して修繕をした場合
修繕のための支払いに係る消費税は、居住用賃貸建物に対するものでも控除の対象となります。ただし、資本的支出とされる金額が1,000万円以上となると、居住用賃貸建物の取得として取り扱われますから、控除の対象となりません。
(3)3年以内の用途変更や譲渡をした場合
居住用賃貸建物の取得後3年以内に、その全部又は一部を店舗や事務所の貸付けへと変更した場合や、その居住用賃貸建物を譲渡した場合は、当初の取得時に支払った消費税の一部について、一定の調整計算により控除の対象とする措置が設けられています。
6.まとめ消費税の控除ができなくなると、納付する消費税が増加します。取引について消費税込みの金額で経理している場合(税込経理方式)、納付する消費税は、所得税や法人税において経費として計上できます。そのため、例えば、個人の場合は、増加した消費税額に、所得税の減税効果(1-所得税率)を乗じた金額が、実際の負担増加額となります。
居住用賃貸建物の取得時に支払う消費税でも控除対象になるものもあります。建築や購入の際の支出については、その支払明細書や領収書を保管し、少しでも多くの消費税が控除できるように備えることが必要です。2021年5月14日
-
240号
税金安夫の税務講座
賃貸マンション事業と借入金
~元本返済額と減価償却費の関係~賃貸建物の購入資金として、金融機関からの借入れを活用する方は多いと思います。初めは順調に推移しているように思われた賃貸経営も15年目くらいからキャッシュ・フロー(資金収支)の悪化が問題に。建築資金の大部分を借入金で賄っているケースで多く見受けられます。
今回は、借入金を活用する賃貸マンション経営における資金面での注意点についてのお話です。
1.借入金による賃貸経営父が駐車場にしている土地ですが、賃貸マンションの建築を考えています。3億円かかりますけど・・・。相続税対策にもなるようですし・・・。
建築資金はどうされますか?
全額借入れです。預金は相続税の納税資金としてとっておきます。年利1%で返済期間は30年。賃貸マンションは私が相続し、賃貸事業を続けるつもりです。
年間賃料想定額の建築代金に対する割合を利回りといいます。全額借入れとなると、利回りは最低10%確保できないと資金収支が苦しくなりますよ。
10%は無理ですね。建築費用も高騰しているし。資金収支とは、簡単に言えば損益のことですか?
2.損益と資金収支の違い収入から経費を引いたものが損益。一方、資金収支はお金の出入りです。例えば、減価償却費は経費ですけどお金は出ていかないので、損益と資金収支は異なります。借入金の返済はどうでしょうか?
利息は経費だけど、元本返済は経費でないですね。
そうですね。損益と資金収支の差異においては、減価償却費と借入金の返済額がポイントになります。
イメージが沸かないので具体例でお願いします。
借入額3億円、返済期間30年、年利1%の元利均等の年1回返済としますと、1年目、
16年目、30年目の返済額の内訳と残元本は次のとおりになります。元利均等返済なので、年々元本返済額が増加し、利息支払額は減少しますね。返済額自体は変わらなくても、経費は減少していくということですね。
では次に、減価償却についてみてみましょう。
3.建物附属設備の償却は15年で終了建物の購入額は一括で経費になりません。税務上の耐用年数に応じて経費化されます。
ところで、建物本体と建物附属設備の金額は分かりますか?建物が約2.1億円、電気設備、衛生設備などの建物附属設備は約9千万円です。
耐用年数は建物が47年、建物附属設備は15年。定額法での償却ですから、経過年数に応じた1年当たりの減価償却費は次のとおりになります。
16年目になると減価償却費が1,065万円から462万円へと603万円も減少しています。
ということは課税所得が603万円増加し、納税額も大幅に増加することになりますね。元利均等返済の場合、年を追うごとに元本返済額が増加し、経費になる利息は減少していきますから、更に納税額が増加し、資金収支が悪化します。
納税額の増加が資金収支悪化の原因ですね。
経費にならない元本返済額が、経費になる減価償却費を上回ると、例えば手元資金が500しかなくても1,000に対して課税されるようになってしまいます。
4.大規模修繕や設備の交換は15年経過後に始まる賃貸経営は、15年目頃までは減価償却費も多く、大きな修繕もほとんどないため資金面で順調です。
そういえば15年経過後に屋上の防水工事などの大規模修繕を実施するような話もしていました。それまでにその資金を確保しておく必要がありますね。
それに加え、15年経過すると、給湯機器、キッチン、ユニットバスの交換も徐々に始まっていくことも考慮しておく必要がありますね。
3億円の全額借入れは見直します。借入額はいくらくらいであれば資金的に乗り切れるでしょうか。
それでは、大規模修繕なども見込んだうえでシミュレーションをしてみましょう。
5.土地は減価償却による経費化ができない表面利回り5%程度の中古マンション投資の広告を目にします。預貯金では運用効果が見込まれない今日において、中古マンション投資を検討される方もおられることでしょう。余裕資金が十分ある場合は別として、借入れで購入するときは注意が必要です。今回の事例は、建物代金の借入れでしたが、土地代金も借り入れるとなると更に資金収支が悪化します。土地代金は減価償却による経費化ができないからです。賃貸マンション投資は高い買い物です。購入時に示される資金収支のシミュレーションは、大規模修繕やメンテナンス工事が的確に見積もられたものかどうか十分な確認が必要です。
2021年4月15日
-
239号
新・事業承継税制は使えるのか
中小企業の事業承継は我が国の喫緊の課題です。経営者の高齢化は急速に進んでいます。対策なしでは今後多くの雇用が失われ、GDPも減少すると試算されています。経営者や後継者にとって事業承継にかかる税金は不安がつきまといます。これに対処するために現在は事業承継税制が設けられています。当初は使い勝手が悪く適用実績は乏しい状況でした。これを踏まえ平成30年度税制改正により、従来の一般措置を抜本的に拡充した時限的な特例措置が創設されました。ようやくこの制度の活用を真剣に検討すべき時が来たと言ってもいいでしょう。今回はこの新・事業承継税制(特例措置)について、生前に計画的に譲ることとなる「贈与」に絞って見ていきます。
1.制度の概要(特例措置)贈与税の納税猶予制度とは、後継者が贈与により先代経営者等から取得した株式に係る贈与税が全て納税猶予される制度です。この適用を受けるには、令和5年3月31日までに「特例承継計画」を都道府県庁に提出し、「円滑化法の認定」を受け、5年の間(特例承継期間)一定の事業を継続する必要があります。活用したい場合には計画書の提出まで現時点から2年ほどしか期間がない時限措置のため、早めに行動に移す必要があります。なお、特例承継計画に基づき実際に対象となる贈与ができるのは、令和9年12月31日までとなっています。
2.適用要件について特例措置の適用を受けるための主な要件は以下のとおりです。
(1)会社に関する要件
次のいずれにも該当しないこと
・上場会社
・中小企業者に該当しない会社
・資産管理会社(一定の要件を満たすものを除く。)
・総収入金額が零の会社、従業員数が零の会社
(2)後継者に関する要件
贈与時において次の要件のすべてを満たすこと
・20歳以上であり、会社の代表権を有していること
・役員の就任から3年以上を経過していること
・後継者およびその親族等で総議決権数の50%超の議決権数を保有すること
・後継者がその親族等の中で筆頭株主となること
(3)先代経営者に関する要件
次の要件のすべてを満たすこと
・会社の代表権を有していたこと
・贈与の直前で、贈与者およびその親族等で総議決権の50%超の議決権数を保有し、
かつこれらの者の中で筆頭株主(後継者を除く)であったこと
・贈与時に代表者を退任していること
3.資産管理会社に該当した場合資産管理会社には(1)「資産保有型会社」と(2)「資産運用会社」の2種類があります。(1)は特定資産(有価証券や自ら使用していない不動産など)が、貸借対照表の総資産の70%以上を占めている会社です。一方、(2)は売上に占める特定資産の運用収入が75%以上の会社となります。不動産賃貸業などの場合は、第三者に賃貸している不動産も特定資産となるため、資産管理会社に該当するケースが多いと思われます。この場合、前述のとおり原則として適用除外となりますが次の3要件を満たせば利用可能です。
(ア)常勤の従業員が5名以上であること
(イ)固定施設を所有又は賃貸していること
(ウ)事業活動を3年以上継続して行っていること
このうち、(イ)と(ウ)については不動産等の貸付業も対象なので実態のある会社であればハードルが低そうです。問題は(ア)の人数要件で、後継者及びその同一生計親族を除いて5人以上です。しかも一時点でも5人を下回ってはならないため、常に6人以上を確保しておく必要がありそうです。
4.特例措置適用における注意点制度の適用にあたり、主に以下の点に留意が必要です。
(1)一括贈与要件
贈与時に保有する自社株式の一定数以上を一括して贈与する必要があります。
(2)担保提供
猶予税額に見合った担保の提供が必要となります。基本的に自社株を担保としますが、株券発行会社である場合は、株券の供託など非常に手続きが煩雑になるため定款を株券不発行会社に変更することをお勧めします。
(3)申告期限後の事務手続き
(a) 5年間(毎年)
・年次報告書の作成及び都道府県庁への提出
・継続届出書の作成及び税務署への提出
(b) 5年経過後(3年に1回)
・継続届出書の作成及び税務署への提出
(4)納税猶予が取り消された場合
従業員要件を満たせなくなったこと、その他一定の取消事由に該当した場合には、原則として猶予されていた税金とその利子を支払う必要があります。
5.最後に一般措置では対象株式が3分の2までであり、80%の納税猶予でした。それが特例措置は全株につき100%納税猶予となりました。贈与税の支払いなしに生前の事業承継が実現可能となったことは特筆すべきことです。導入時の入口要件は緩和されましたが、要件の継続と事業承継時である出口について十分な検討が必要です。様々な検討項目がありメリットとデメリットを天秤にかけることも大事です。しかし一番重要なのは後継者の事業を承継する「意思」ではないでしょうか。その意思があれば、まずは納税猶予額を試算することをお勧めします。特に(1)株価が高い(2)事業を後継者に継がせたい(3)納税資金が厳しい、などに該当するようであれば事業承継税制の特例措置の利用を熟思すべきです。
2021年3月15日
-
238号
令和3年度税制改正の概要
令和3年度の税制改正大綱が令和2年12月10日に公表されました。今回はこの税制改正の主要項目のうち、特に注目すべき点をピックアップしてお届けします。
1.住宅ローン控除、住宅取得資金贈与の見直し新型コロナウイルスの影響による先行き不透明さなどを背景に、住宅取得環境が厳しさを増していることから、住宅投資を幅広い購買層に喚起するため、住宅取得に関する以下の制度について見直しが行われます。
(1)住宅ローン控除
消費税率10%適用の住宅の取得等で、13年間の税額控除(年最高40万円)を受ける際に、以下の点が見直されます。
(2)住宅取得資金贈与の非課税措置
直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置については、非課税限度枠や、対象となる住宅用家屋の床面積要件について見直しが行われます。
①非課税限度枠②対象となる住宅用家屋の床面積要件
2.外国人に係る相続税、贈与税の納税義務の見直し高度外国人材の日本での就労等を促進する観点から、国外居住の外国人等が、就労等のために日本に居住する外国人から相続により取得する国外財産は、相続税の課税対象としないこととなります。
これまでは、被相続人である外国人の日本での居住期間が10年以内の場合に、課税対象を国内財産に限定する等の措置を講じてきました。今回の改正で、被相続人の日本での居住期間の縛りがなくなります。なお、贈与税についても同様です。
3.非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度の見直し非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度について、中小企業経営者が高齢化している状況を考慮し、後継者要件のうち、役員要件を緩和する見直しが行われます。
なお、後継者は、原則として、被相続人の相続開始の直前において認定承継会社の役員である必要があります。
【改正前】被相続人(先代経営者等)が60歳未満で死亡した場合は、役員要件は不要。
【改正後】被相続人(先代経営者等)が70歳未満で死亡した場合、又は、後継者が特例承認計画に
特例後継者として記載されている者である場合は、役員要件は不要。
4.教育資金贈与、結婚・子育て資金贈与の見直し教育資金贈与、結婚・子育て資金贈与に係る贈与税の非課税措置については、贈与者死亡時の残高と相続税額の2割加算に係る現行の取扱いが節税的な利用につながっているとの指摘を踏まえ、格差の固定化の防止等の観点から次表の見直しを行った上で、適用期限が2年延長されます。
5.土地に係る固定資産税等の負担調整措置固定資産税の土地価格を基に税額を単純計算すると、税額が急激に増える可能性があるため、それを緩和する措置を負担調整措置といいます。従前は令和2年度までの予定でしたが、令和5年度まで3年間延長されます。
なお、令和3年度は固定資産税の価格の評価替えの年に該当し価格が上昇することが予想されていましたが、コロナ禍の影響を勘案し、税額が増加することとなる土地については、令和2年度の税額に据え置く特別な措置が講じられます。
6.その他の主要な改正項目2021年2月19日
-
237号
申告納税制度について深掘り
~導入時と現状、支えているものとは、自主申告で税額確定?~ご承知のとおり、「申告納税制度」とは、自ら正しく収入・経費を記録・集計し、税法に従い納税額を計算し、税務署等に申告・納税するというもので、自主的な申告・納税によって納税額が確定することを原則としています。
対象税目としては、国税では、法人税、所得税、相続税、贈与税、消費税など、地方税では、法人県民税、法人市民税などがあります。
さて、「申告納税制度」は、自ら申告と納税をするという極めて民主的な制度ですが、導入時からうまく機能したのでしょうか。
1.導入時の状況と現状「申告納税制度」は、日本の税制の柱として昭和22年に導入されました。当時は、敗戦に伴う経済的混乱の中で国民は疲弊し、インフレの高進により所得税等の重税感は大きいものでした。又、昭和23年に税務職員を5万人増員し7万4千人体制にしたものの、職員も不慣れで、税務行政を取り巻く環境は最悪だったのです。
更に、記帳の慣習が十分でない中、昭和23年に個人所得税の申告件数の約70%について、申告怠慢として国が更正決定を行ったのです。そのためおびただしい異議申立てが提出され、税金の滞納も慢性化しました。
導入時の混乱ぶりは想像以上だったようです。
それでは、現在はどうでしょうか。
一つの目安として、租税収入に占める税務調査による追徴税額の割合(以下「追徴税額の割合」と言います)を見てみましょう。
昭和25年度の法人税について見ると、租税収入が924億円であるのに対し、税務調査による追徴税額が287億円となっています。つまり、追徴税額の割合は31%となり、69%が自主的に申告された税額になります。
結果的には何と、昭和25年度は、法人税の租税収入の1/3が、税務調査によって賄われていたということになります。
同様に、平成30年度の法人税について見ると、租税収入が12兆8千億円であるのに対し税務調査による追徴税額が1千9百億円。追徴税額の割合は1.5%となり98.5%が自主的に申告された税額になります。
単純に比較はできませんが、昭和25年度に比べれば、現在の方が、その機能を十分に発揮していると言えるのではないでしょうか。
それでは、何が「申告納税制度」を支えているか、主なものを挙げて見ます。
2.税法上の諸制度(1)青色申告制度
「申告納税制度」の基本である「適切な帳簿付け」を推奨するため、適切で継続的な記帳と書類の保存を条件に、税法上の特典が受けられるようにしています。
(2)法定調書制度
給与、報酬・料金、不動産の使用料等の支払者にその支払先や支払金額等を税務署に報告させ、支払いを受けた人が適正に申告しているかどうか、税務署が照合するために利用しています。
(3)税務調査
申告内容をチェックし、申告漏れなどが認められた場合には是正することによって、公平な課税と適正申告への牽制効果を狙いとしています。
令和元年度の査察の処理状況は、告発件数が116件、脱税額が92億(1件当り8千万円)であり、税をごまかそうとする事例が後を絶ちません。今後も「正直者がバカを見ない」よう期待したいものです。
3.税理士制度日本の税理士制度は、ドイツの制度を範として、昭和26年の税理士法制定により整備されました。
税理士法第1条(使命)に「税理士は、申告納税制度の理念に沿って、税務の専門家として適正な申告の実現に努める」と規定されており、約8万人の税理士が国民の良きパートナーとして適正申告に努めています。
4.日本人の気質日本人は、一般的に礼儀正しく・まじめだと言われていますので、それが「申告納税制度」を支える遠因になっているのかもしれません。
イタリアでは、以前ベルルスコーニ首相が「一定の反則金を払えば、それまでの脱税は大目に見る」という特例を発したことがあります。しかし、イタリアは、宗教改革のもととなった免罪符を売ったバチカンのお膝元だけあって、特に驚くことではないのかもしれません。
これに比べれば、少なくとも日本人の納税意識はマトモな方ではないでしょうか。
上記の諸制度等は、間違いなく「申告納税制度」を支えてきたと思われます。
5.むすび「申告納税制度」の下では、自主的な申告により納税額が確定すると言われています。
しかし、それは税務署の更正処分がないことを前提とする仮の確定にすぎないとも考えられるので、やはり「税はお上が決めるもの」という感はぬぐい切れません。
そうだとしても、税務調査が「申告納税制度」で果たしている役割を考えれば、条件(税務調査への緊張感)付きの確定でも仕方がないことかもしれません。2021年1月15日
-
236号
共有不動産と取得費加算の特例
~被相続人と共有の場合~相続又は遺贈によって取得した資産で相続税が課されていたものについては、その資産の譲渡時にその相続税を必要経費として取得費に加算できる取り扱いがあります。
この取り扱いを「取得費加算の特例」といいますが、被相続人と元々共有であった不動産を相続後に譲渡した場合には、相続による取得者が共有者であるか否かにより税負担が異なる場合があります。
1.譲渡所得の計算方法個人が不動産を譲渡した場合には、譲渡損益を次のように計算し、譲渡益が生じた場合に所得税が課税されます。
収入金額(譲渡代金)- 必要経費(取得費+譲渡費用)= 譲渡損益 取得費とは資産の取得に要した金額のことで、いわゆる取得原価のことです。
譲渡費用とは資産を譲渡するために直接必要な費用のことで、印紙代や仲介手数料、測量費などです。
2.取得費加算の特例相続税を支払って承継した資産のその相続税は、取得するための原価の一部であると思うかもしれません。しかし、正確には相続税は取得原価ではないため取得費とはなり得ません。
ただし、相続の後あまり時間を経ずに資産を譲渡したときは、相続税と所得税の両方が短期間に課されることから二重課税感が強くなります。
そのようなこともあり、特例として相続税を取得費に加えても良い取り扱いがあり、これを「取得費加算の特例」といいます。この特例を利用できる要件は、相続開始後から3年10か月以内の譲渡となっています。
具体的な計算方法はここでは割愛しますが、上記の3年10か月以内の譲渡であれば相続税を取得費に加算することが特別に認められていますので、所得税の負担が大きく軽減されます。資産の資金化を考えるのであれば、この特例を上手に活用することが大事でしょう。
3.被相続人と共有であった不動産 その1被相続人は甲、相続人は2名で乙と丙であるとします。
相続財産としては、甲と乙が1/2ずつ所有していた共有土地Aがあり、甲の共有持分を丙が相続しました。
土地A・・・相続前 甲1/2、乙1/2
・・・相続後 丙1/2、乙1/2この前提で、土地Aの1/2(半分)のみを譲渡した場合の取得費加算の特例はどうなるのでしょうか。
(1)土地Aの半分を分筆して乙丙が共有で譲渡した場合
土地Aの1/2を分筆して譲渡したことになり、売主は乙と丙の2名です。乙は元々所有していた部分(全体の1/4)の譲渡のため特例とは関係がありません。丙は譲渡の全て(全体の1/4)が取得費加算の対象になります。
(2)土地Aの半分を譲渡するにあたり、共有物分割による分筆を行って、丙が単独所有として譲渡した場合
譲渡対象は上記(1)と同じく土地Aの1/2ですが、共有物分割によって丙の相続持分は譲渡対象地に集約されています。この場合には、全てが相続土地であるとして譲渡の全部(全体の1/2)を取得費加算の対象にすることができます。したがって、(1)より税負担が軽減されます。
4.被相続人と共有であった不動産 その2その1の場合の前提条件で、甲の共有持分を乙が相続した場合には
どうなるのでしょうか。
土地A・・・相続後 乙所有100%(乙1/2相続、乙1/2)
(3)土地Aの半分を分筆して乙が譲渡した場合
乙は、乙が相続で取得した被相続人甲の持分1/2のみを譲渡する意思で、土地Aの半分を売却しました。つまり、上記(2)と同じように相続持分のみを特定して譲渡したかったのです。
しかし土地Aは、相続後は乙100%所有となっていることから、もはや共有物分割をすることはできず、被相続人の持分部分を特定できません。
そのため、乙は譲渡の1/2(全体の1/4)のみが取得費加算の対象となります。
相続の取得者が乙か丙のいずれであるかにより、取得費加算の特例の範囲が異なる場合があるのです。
5.物納では有利不利がない譲渡した本人の意思・考え方を尊重するなら、上記(2)と(3)で異なる取り扱いをする必要はないとも考えられます。しかし、取得費加算の特例はあくまで相続した土地を厳密に解釈して適用しています。そのため、売却した土地そのものは物理的には同じだとしても、相続人によって税負担に差異が生じるケースがあるのです。
なお、物納の場合には柔軟な取り扱いがされており、上記(3)のケースでも(2)と同様に考えて良いとされています。物納という納税手続きのため、相続の仕方で不利にならないようにと配慮されているのでしょう。2020年12月15日