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毎月職員が交代で執筆しています。
ただ、自分の順番が回ってくると、
その対応は様々です。
税務のプロとして、日頃の実務や研究の成果を
淡々と短時間にまとめる者、
にわか勉強で急に残業が増える者、さて今月は…
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223号
配偶者居住権の税務上の取扱い
~みなし贈与との関係~40年ぶりの民法改正により配偶者居住権が創設され、来年4月から適用されます。この配偶者居住権に関し、え~っと通信2019年6月号で、小規模宅地等の特例の適用関係についてご案内させて頂きました。この度、令和元年7月2日付で、国税庁から配偶者居住権が合意解除等により消滅した場合の取扱いに関する通達が公表されましたので、今回は、この配偶者居住権の税務上の取扱いについてご案内いたします。
1.配偶者居住権の評価について配偶者居住権とは、相続発生時に、被相続人が所有していた建物に居住していた配偶者が、終身又は一定期間、その建物を使用できる権利のことをいいます。その相続税評価額の計算式は、下記のとおりです。
(1) 配偶者居住権が設定された建物の評価 (2) 配偶者居住権
建物の時価-上記(1)(3) 敷地所有権
土地等の時価×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率(4) 配偶者居住権に基づく敷地利用権
土地等の時価-上記(3)遺産分割等により取得した配偶者居住権(上記(2)及び(4))は、相続税の計算上、当該配偶者の相続財産として計上することになります。取得したのち、これらの権利の価額は、期間の満了に向けて、時間の経過とともに逓減します。
※ 建物の残存耐用年数は、法定耐用年数の1.5倍から建築後経過年数を控除した年数とする。
※ 配偶者居住権の存続年数は、終身の場合は完全生命表による配偶者の平均余命年数とする。
2.配偶者居住権の消滅による課税関係(1)配偶者居住権を取得した配偶者が亡くなった場合
亡くなった配偶者が有していた配偶者居住権は、民法の規定により消滅します。すなわち、配偶者の相続財産にはなりません。これは、配偶者居住権が設定されたご自宅を取得した子からすると、一次相続では配偶者居住権を除いた価額により相続したものが、その後の配偶者の死亡により、追加の税負担なしに完全所有権が復元されることになります。
(2)配偶者居住権を合意解除する場合
配偶者居住権が設定されたご自宅を譲渡する場合を考えてみます。この場合、配偶者は、所有権を持つ子との合意により、配偶者居住権を解除する必要があります。配偶者居住権は、あくまでご自宅を使用収益する配偶者固有の権利であるため、譲渡の対象とはならないからです。合意解除をすると、配偶者から子へ使用収益権が移転するため、みなし贈与として贈与税が課税されます。つまり、相続人で示し合わせて、一次相続で配偶者居住権を設定し、ご自宅の評価額を一時的に下げても、後々合意解除する場合は、その時点で課税されてしまうということです。配偶者居住権を放棄した場合や、配偶者の用法違反により、配偶者居住権が消滅した場合も同様にみなし贈与に該当します。
このみなし贈与課税を防ぐためには、解除による消滅直前の配偶者居住権相当額を、子が配偶者に支払う必要があります。ご自宅を譲渡する場合、譲渡所得の計算上、配偶者に支払った配偶者居住権相当額をどう取り扱うのか、また、支払を受けた配偶者の課税関係はどうなるか等、今後も注目していく必要があります。
3.必要費の負担必要費とは、物の保存または管理に必要な費用のことをいいます。配偶者居住権が設定された建物に修繕が必要となった場合、使用収益している配偶者が修繕費を支払う必要があります。固定資産税についても配偶者が負担すべき費用と考えられます。いずれも、配偶者が支払わない場合は、一旦所有者である子が立替え、その後配偶者に請求することになります。必要費の負担については、事前に話し合っておくことが大切です。
4.配偶者居住権は設定すべきか配偶者が認知症になり、老人ホームに入るためご自宅を売却するような場合、認知症になった後に配偶者居住権の解除が可能なのか、という問題が生じます。また、配偶者居住権が設定されたご自宅を借入の担保にする場合、銀行側がどう判断するか、という疑問もあります。遺産分割による配偶者居住権の設定は、相続の際の一つの選択肢ですが、先々まで見通した上で、慎重な判断が必要となります。
2019年11月15日
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222号
相続不動産売却。いろいろな注意点があります。
~権利証より契約書~相続した両親の実家を売却する際にはさまざまな税制上の
論点があります。そこで!今回はその実例をご紹介します。
1.実際にあった相談事例父親から相続により取得したマンションを売却しようとするお客様からのご相談です。その父親は新築マンションを購入したらしく、当時に比べればかなり値下がりしているので税金がかからないのではというご質問がありました。資料を拝見すると権利証はありますが、購入時の売買契約書の保存がありませんでした。
2.譲渡所得税の計算について譲渡所得は下記の算式で計算し、値上がり益に対して譲渡所得税等が課税されるため、値下がりしている場合には(厳密には減価償却など細かい計算がありますが)課税されません。
譲渡所得=譲渡収入-取得費-譲渡費用
譲渡所得税等=譲渡所得×20.315%(長期譲渡※の場合。住民税等含む)
(※)譲渡年の1月1日現在で所有期間5年超の譲渡相続した不動産の取得費は、被相続人の取得費を引き継ぐため今回のケースでは父親の購入価額を基に計算します。
また、取得費がわからない場合、譲渡収入の5%を取得費とすることができます。ただし、その場合には約95%が利益となり譲渡所得税等を多額に納付することになります。
3.売買契約書がない場合の取得費の計算購入時の売買契約書がない場合には取得費を推定する方法があります(資料の信憑性がないと認められません)。推定方法としては、市街地価格指数等の統計データを使用する方法や登記簿の抵当権等から推定する方法などがありますが、新築マンションの場合には分譲時パンフレット等の分譲価格に基づき計算する方法があります。そこで不動産仲介業者にお願いして分譲時の価格表のデータをもらい、試算したところ、税金はかからなそうでした。
4.これで解決と思いきや実はこれでおしまいではありません。その父親は不動産を買換えにより取得していたらしいのです。この場合、「特定の居住用財産の買換えの特例」というものを適用していた可能性があります。
この制度の特徴は下記の通りです。
(1)売却価額より買い換えた不動産の購入金額の方が大きい場合には、買換え時には譲渡所得税等がかからない
(2)買い換えた不動産を将来売却したときの取得費の計算は買換え時に売却した不動産の取得費を基に計算される(過去の取得費を引き継ぐ)この制度は課税の繰延制度ですから、買換え時には税負担を軽減できますが、買い換えた不動産を売却するときに当初の不動産の値上がり分も含めて課税しますよというものなのです。
要は、その父親が過去にこの特例を適用しているか否かで今回の税負担が大きく変わってしまうのです(適用していた場合には譲渡所得税等を納付する可能性が出てきます)。
5.さらにヒアリングをしてみると上記の特例を適用していたか否かは当時の税務申告書の保存がないためわからないとのことでした。しかし、税務署では特例を適用しているかどうかの記録が半永久的に残っています。そこで税務署に特例を適用しているか確認を取りに行きました(今回は税務署に行きましたが、電話で教えてくれる場合もあります)。その結果、特例を適用していないことが判明。無事税金がかからないこととなりました。
6.まとめ相続した不動産を売却する場合には、購入時の売買契約書の有無、買換特例の適用の有無の確認が必要です。税務相談に来られたお客様の多くが売買契約書をお持ちでないことが多いです。
買換特例以外にも税制上の特例として相続税の取得費加算や相続空き家の3000万円特別控除などがあります。こういった特例を適用せずに申告をした場合には、申告のやり直し(更正の請求)ができないことも多いです。やはり売却前に資産税に詳しい税理士へのご相談が望ましいことは言うまでもありません。2019年10月15日
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221号
貸付事業用宅地等の事例研究
~相続開始前3年以内に賃貸した土地の取扱い~相続税対策の一つとして不動産の購入が考えられます。賃貸用建物であれば固定資産税評価額の70%評価、その敷地について小規模宅地等(貸付事業用宅地等)の特例が適用されれば、アパート敷地による減額に加え、更に50%引きになります。現金1億円で賃貸マンション等を購入すれば評価額が3分の1以下になることもあり、相続開始を見据えて、その直前に賃貸不動産を購入する事例が増加しているようです。そのようなこともあり、貸付事業用宅地等の範囲が改正されています。相続開始前3年以内に新たに貸付けを開始したものは、原則として貸付事業用宅地等から除かれることになったのです。ただ、3年以内に貸付けを開始したものの全てが除外されるかというとそうではありません。そこで、今回は事例を交えて、貸付事業用宅地等の適用について考えてみましょう。
1.現行制度の概要事例に入る前に、現行制度についておさらいしましょう。
貸付事業用宅地等とは、相続開始の直前において、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等(賃貸アパートや貸駐車場の敷地など)のことで、200㎡までの部分について50%評価減が可能です。適用要件としては、相続税の申告期限までに貸付事業を承継し、かつ、その申告期限までその貸付事業を継続し、その宅地等を保有することです。上記でも述べましたが、相続開始前3年以内に新たに貸付けを開始したものは、原則として貸付事業用宅地等の範囲から除かれます。ただし、被相続人が相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている場合には、3年以内に貸付けを開始した物件でも特例の対象になります。つまり、従前からの不動産賃貸が、事業としての性格を有する事業的規模の場合は、相続開始の直前に新たに貸付けを開始した物件もその事業の一環として捉え、貸付事業用宅地等の適用を認めようとするものです。ちなみに事業的規模とは、所得税と同じで、戸建なら5棟、アパート等なら10室以上と言う基準での、いわゆる「5棟10室基準」の要件を満たすものとされています。「3年」というキーワードが、「宅地等の貸付事業供用期間」と「貸付事業が事業的規模である期間」の2つに掛かっていて複雑です。そこで、相続開始前3年以内に貸付けたものと3年を超えて貸付けているものがあるケースについて検討します。
2.事例研究<事例>
被相続人は、アパートAとその敷地、アパートBとその敷地を所有していました。アパートAは、相続開始5年前から貸付けの用に供していますが、アパートBは相続開始2年前からです。各アパートの室数が下記(1)から(3)の場合に、貸付事業用宅地等の対象はどのようになるのでしょうか。(1)アパートA: 4室
(2)アパートA: 5室
(3)アパートA:12室アパートB: 2室
アパートB:12室
アパートB: 5室<回答>
(1)と(2)については、アパートAの敷地のみが貸付事業用宅地等の対象になります。
(3)については、全ての敷地が貸付事業用宅地等の対象になります。<検討>
(1)のケース相続開始時の貸付室数は6室(アパートA4室とアパートB2室)のため、事業的規模に該当しません。そのため、相続開始5年前から貸付けの用に供しているアパートAの敷地のみが、貸付事業用宅地等の対象となります。アパートBの敷地は相続開始2年前に新たに貸付事業の用に供した宅地等ですので、その対象になりません。 (2)のケース
相続開始時の貸付室数は17室(アパートA5室とアパートB12室)のため、事業的規模に該当します。しかし、アパートBは、相続開始前2年前に新たに貸付事業の用に供しています。そのため、「被相続人が相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている場合」に該当せず、アパートBは12室あったとしても、その敷地は貸付事業用宅地等の対象になりません。アパートAの敷地は、上記(1)に記載したとおり、貸付事業用宅地等の対象になります。 (3)のケース
上記(2)のケースと同様に相続開始時の貸付室数は17室(アパートA12室とアパートB5室)のため、事業的規模に該当します。(2)のケースとの違いは、12室のアパートAは相続開始5年前から貸付事業の用に供しており、「被相続人が相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている場合」に該当します。そのため、貸付期間3年未満のアパートBの敷地を含め、全ての敷地が貸付事業用宅地等の対象になります。
3.まとめ相続開始前3年以内に新たに貸付けを開始した宅地等に対する小規模宅地等の適用は、被相続人の貸付規模とその継続期間が判定のポイントになります。
なお、令和3年3月31日までに開始された相続で、貸付開始が平成30年3月31日以前のものは、貸付期間にかかわらず、貸付事業用宅地等の対象になるという経過措置が設けられていますので注意が必要です。2019年9月13日
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220号
不動産賃貸に関わる民法改正
~賃貸不動産オーナーの皆様が知っておくべき改正の内容は?~債権に係る改正民法の施行日が2020年4月1日からと迫っています。相続に関する改正の内容は色々と話題になっていますが、債権に関する分野でもいくつか重要な改正がなされています。そこで今回は、債権に関する改正項目のうち、賃貸不動産オーナーの皆様に特に注意していただきたい内容についてお話ししたいと思います。
1.極度額の定めのない個人根保証は無効個人が保証人になる根保証契約については、「極度額」を定めることが義務化されました。「極度額」とは保証人が支払いの責任を負う金額の上限のことです。今後は「極度額」の定めのない契約は無効になります。賃貸借契約書の連帯保証に係る条項には以下のような記載が必要になります。
なお、極度額についての決まりはありません。賃料の1年から1年半程度は記載しておきたいところですが、過大な金額を設定すると保証人の合意が得られない可能性があります。今後は保証会社の利用なども併せて検討する必要が生じるかもしれません。
2.保証人に対する情報提供義務の新設改正民法では保証人のために必要な情報を提供することが新たに義務付けられました。不動産賃貸経営上重要なものは以下の2つです。
(1)賃借人の保証人に対する情報提供義務
事業用物件の賃貸借契約を締結する際に、賃借人から個人の保証人に対して財産状況など一定の情報を提供することが義務付けられました。義務を負っているのは賃借人ですが、賃借人がその義務を怠っていた場合には保証契約を取り消されてしまう可能性があります。そうなると不利益を被るのは賃貸人であるオーナーの皆様です。今後、新規に事業用の賃貸借契約を締結する際には契約書に情報提供に関する記載欄を設けるなどして、賃借人が確実に義務を履行しているか確認する必要があります。ちなみに保証人が法人の場合、情報提供義務はありません。上記1.と同様、こちらのケースでも保証会社の利用は要検討です。
(2)賃貸人の保証人に対する情報提供義務
賃貸人に対して保証人から請求があった場合には、賃借人の賃料について滞納がないか、情報提供することが義務付けられました。こちらは、事業用物件か否かにかかわらず適用され、保証人は法人・個人を問いません。賃借人の依頼を受けて保証をしている全ての保証人に対して適用されます。
3.原状回復義務の明確化改正民法では賃借人は通常損耗や経年変化による損傷については原状回復義務を負わないことが明記されました。
具体例は次のようなものです。
4.敷金に係る規定の新設改正前の民法には敷金の定義や返還に関する定めはありませんでしたが、改正民法では以下のように定められました。
(1)敷金の定義
いかなる名目によるかを問わず、賃料その他の賃貸借契約に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭
(2)敷金の返還賃貸人は賃貸借契約が終了し、賃貸物の返還を受けたときに、賃借人に対して受け取った敷金の額から賃貸借契約に基づいて生じた賃借人の金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない。 上記の改正の内容はこれまでの判例や実務慣行をふまえたもので、新しい考え方ではありません。
改正民法施行後も一定の通常損耗について敷金から差し引く旨の特約は有効だと考えられます。賃借人が負担することになる具体的な通常損耗の範囲を賃貸借契約書に明記しておきましょう。
5.改正民法の適用関係改正民法施行日前に締結された契約については改正前の民法、施行日以後に締結した契約については改正後の民法が適用されます。更新契約についても施行日以後に締結したものについては改正民法が適用されます。
連帯保証人の極度額など従来の契約書に記載がないものはそのまま更新すると無効になってしまいます。
思わぬ不利益を被ることがないよう、来春の民法改正に備えて、早めに既存の賃貸借契約書の内容をご確認されることをお勧めします。2019年8月15日
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219号
税金安夫の税務講座
「老人ホーム入所と相続税・譲渡税の特例」
~ここだけは注意しよう!! 重要なポイント~人生100年の時代ともいわれ、老人ホームを"終の棲家"とする方も増えているようです。税務の世界でも、老人ホーム入所者の増加に配意したためか、入所後の自宅建物や敷地に対する「居住用特例」の適用についての改正が行われています。今回は、老人ホームに入所した場合の"小規模宅地の特例"と"相続空き家の3,000万円特別控除"などの特例適用の注意点についてのお話のようです。
1.老人ホーム入所と特定居住用宅地等老人ホームに入所しても相続時に自宅敷地に80%減額の小規模宅地の特例が適用できるようになったのはありがたいですね。重要なポイントを教えてください。
そうですねえ~、主な要件は次のとおりです。
一人暮らしの場合は空き家になるため、(2)と(3)は注意が必要です。空き家の場合の小規模宅地は、通常はいわゆる"家なき子"が相続する場合に限られますが…。
空き家になると別居の子が転居してくることがありますよね。小規模宅地を適用する方法はありますか?
"生計一親族の居住用宅地"と"貸付事業用宅地"が考えられますが、あまり現実的ではないですね。
"生計一"とは財布が一緒ということですよね。
老人ホームの親との生計一なので、例えば、子が老人ホーム費用の全てを負担することなどが考えられます。
話は戻って空き家になった場合ですが、"家なき子"の要件も変わりましたよね。
相続開始前3年以内の住居が自己又は配偶者の持ち家以外でしたが、3親等内の親族や同族会社などの所有建物に居住している場合も適用できなくなりました。
住まいは賃貸に限るということですね。空き家になり、自宅敷地に小規模宅地の特例が適用できないとなると、売却してしまうことも考えられますね。
2.相続空き家の3,000万円特別控除居住用の3,000万円特別控除は2つあります。相続前の所有者による売却と相続後の相続人による売却です。後者は、"相続空き家の3,000万円特別控除"といわれており、区分所有建物の場合は適用できません。
相続空き家は、昭和56年5月以前の旧耐震の空き家をなくすための制度で、耐震改修して売却するか、更地にして売却するかのいずれかですね。でも、老人ホーム入所の場合は適用できなかったですよね?
今年度の改正で適用可となりました。相続開始から3年経過日の属する年の年末までの譲渡、譲渡価額1億円以下などの通常の要件に加え、老人ホーム入所に限っては次の要件を満たす必要があります。
(1)ですけど、小規模宅地の特例の場合は"死亡時"でしたよね。どうして"入所時"なのですか?
介護の必要もないのに老人ホームに入るのは、通常の転居と同じ。あくまで私見ですが、入所後の自宅は居住用に該当しないと考えるからだと思います。
それから(2)ですけど、老人ホームに入ってから自宅を使用するとは具体的にどういうことですか。
家財道具を保管していればいいようです。荷物も何もない家は自宅とはいえないからでしょう。この制度は、あくまで居住用財産の譲渡ですから…。
なるほど、居住用財産該当性がポイントですね。でも、新耐震や区分所有の場合は適用できないですね。
3.居住用財産の3,000万円特別控除相続開始前に譲渡すれば通常の3,000万円控除が適用できます。自宅に住まなくなってから3年経過日の属する年の年末が譲渡の期限です。
この場合は、要介護でなくてもOKですね。
そうです。それに加え、譲渡するまでの間に建物を賃貸しても親族が入居してもよく、また、建物を取り壊して更地を譲渡しても適用できます。ただし、譲渡までの間に土地を賃貸したら適用できません。
建物を賃貸したり、親族が新たに入居したりすれば所有者からみれば自己の居住用ではないですよ。
相続空き家の制度とは異なり、こちらはOKです。老人ホーム入所の場合の相続空き家の特例は、特例の特例なので要件がより厳しくなるようです。
4.居住用に関する相続税、譲渡税の特例の検討老人ホームに入所し、自宅が空き家になったとしても、ご存命中に自宅を売却することは躊躇される方が多いように見受けられます。
相続開始時に自宅敷地に小規模宅地の特例を適用できればよいですが、老人ホーム要件や取得者である相続人の要件を満たさず適用できない場合もあります。相続人が使用する予定がなければ、譲渡所得に係る3,000万円控除の適用等による資産の組み換えも選択肢に加えた上で、相続税対策を検討されてみてはいかがでしょうか。2019年7月12日
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218号
配偶者居住権の創設
~小規模宅地等の特例はどうなる?~民法改正で2020年4月に「配偶者居住権」が創設されます。高齢化社会の進展により、配偶者が相続後長期間にわたって生活を維持する例が多くなりました。そこで、住み慣れた居住環境を維持しつつ、生活資金も一定程度確保できる改正が行われました。今回は、この配偶者居住権の制度内容、小規模宅地等の特例の適用方法などについてご紹介致します。
1.配偶者居住権とは配偶者居住権とは、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物について、終身または一定期間無償で使用できる権利のことです。遺産分割や遺贈等で設定でき、相続税の課税対象となります。また、配偶者居住権は、登記が可能であり、第三者に対抗することが出来ますが、譲渡することは出来ません。配偶者が死亡した場合は、権利は消滅します。
2.権利のイメージ配偶者居住権が設定されている建物と敷地のイメージは下図のようになります。
配偶者は、従来の完全所有権である建物および敷地を相続するよりも評価額の低い「配偶者居住権」「敷地利用権」を相続することになります。評価額が下がることによって、配偶者の取得できる法定相続分に余裕ができ、その分だけ生活資金等他の資産の相続も可能になります。
3.小規模宅地等の特例は?では、この配偶者居住権に小規模宅地等の特例は適用できるのでしょうか。まず、配偶者居住権は、建物を目的とする権利ですので、宅地を対象とする小規模宅地等の特例は適用されません。
建物の敷地については、次の2つに区分され、それぞれに特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例適用が可能と考えられます。
〇配偶者居住権に基づき配偶者が取得する敷地利用権・・・土地の上に存する権利に該当するため適用が可能(配偶者は無条件に適用可能)
〇配偶者居住権付の敷地所有権・・・土地の所有権である底地部分は、要件に該当すれば適用が可能
4.配偶者のみが居住している場合では、具体的な相続パターンで考えてみましょう。
配偶者のみが居住している一般的なパターンでは、配偶者が相続する「敷地利用権」のみ適用可能になります。
5.配偶者と子供が同居している場合配偶者と子供が同居している場合には、子供が取得する敷地所有権部分についても適用が可能になります。
6.2次相続時~配偶者が死亡した場合~配偶者が死亡すると、配偶者居住権は消滅するので、2次相続時には課税関係が生じないのではという論点があります。配偶者居住権が消滅すると、その目的とされた土地・建物は完全所有権の価額に復元されます。消滅により経済的利益が生じたものとして課税がされないのか、という論点も残ります。仮に課税がされないとなると、1・2次相続を通じて、配偶者居住権・敷地利用権部分をお得に次世代へ承継させることが可能になります。今後は、この点も踏まえて1次相続時から分割を考えるのも必要になってきそうです。
2019年6月14日
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217号
遺留分に関する民法改正
~揉めたくないけど揉めてしまった場合に知っておきたい遺留分とは?~昨年からニュースでもよく取り上げられていますが、相続に関する民法が改正されました。配偶者居住権の創設、自筆証書遺言の要件緩和などのほか、遺留分制度についても見直しが行われています。今回は、その遺留分制度の改正内容と税務への影響について取り上げます。
1.相続で揉めないための遺言作成遺言が作成されていないと、遺産は相続人間の協議により分割することになります。相続人間で争いがあり(争続)、その協議がまとまらないと調停や訴訟となり、時間も費用もかかるうえ、精神的な負担も大きなものとなってしまいます。そのため、亡くなった被相続人の意思を反映させ、相続人間で揉めないようにするためには、遺言書を作成しておくことになります。遺言書を作成する場合に注意すべきことは、遺留分を侵害しない内容としておくことです。
2.遺留分とは遺留分とは、民法で保障された最低限度の相続分であり、以下のケースでは次表のとおり法定相続分の2分の1になります。なお、兄弟姉妹に遺留分はありません。
遺言で指定された財産が、遺留分に達しない場合を遺留分の侵害といいます。遺留分を侵害された相続人は、相続の開始があったことを知った日から1年以内に遺留分の減殺請求権を行使することにより、従来は現物の財産の返還を請求できましたが、この点について次のとおり改正が行われました。
3.遺留分に関する改正内容(1)減殺請求権から侵害額請求権へ
改正前は、前述のとおり、不動産などの現物の財産の返還を原則としていましたが、金銭による弁済も認められていました。改正後は、遺留分侵害額請求権に名称変更され、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求する権利となりました。改正により、原則、モノ(現物)での解決から、カネ(金銭)での解決へとしたわけです。
今までは遺言により単独承継した不動産が、遺留分の減殺請求により共有となるようなことがありました。そのため、その不動産の活用や売却に際しては、共有者全員の合意が必要となるなど、手続きにおいて面倒なことがままありました。
今回の見直しでは金銭での支払いとなるため、この問題点は解決されることになります。なお、金銭をすぐに準備ができないような場合には、裁判所に対し、金銭の支払いについて期限の許与を求めることもできます。
(2)遺留分の算定方法の改正
遺留分の算定においては、被相続人が相続時に所有していた財産以外に、生前、相続人が被相続人から贈与を受けて取得した財産も遺留分の計算対象とされます。贈与は、相続で受ける財産の前渡しと考えられるため、原則として、贈与財産のすべてが遺留分の算定の基礎とされていました。この点について、改正後は、原則として、相続開始前10年以内の贈与財産に限定されることになりました。なお、相続人以外の者に対する贈与は、原則1年以内のものが対象とされています。
また、遺留分算定における贈与財産の評価方法は、贈与を受けた時の価額ではなく、相続開始時を基準として評価した価額とされます。(3)適用時期
上記(1)及び(2)の遺留分に関する改正の適用時期は、2019年7月1日からとされています。
4.遺留分改正に伴う税務への影響相続税は、相続税の総額を計算し、各相続人が実際に取得した財産の割合により負担する税額を算定します。
遺留分の侵害額請求を受け価額弁償を行った相続人は、実質的に取得した財産が減少しますから、弁償額が確定した時から4ヶ月以内に相続税について更正の請求を行うことになります。一方、価額弁償を受けることとなった相続人は、改めて申告(修正申告)を行うことになります。
なお、侵害額請求を受けた相続人が金銭を支払うために不動産を売却すれば、譲渡所得税の対象です。一方、支払うべき金銭に代え不動産で代物弁済をした場合が問題となります。改正前は、現物である不動産を返還しても譲渡所得税の対象ではありませんでした。しかし、改正後は不動産による代物弁済として譲渡所得税の対象となる懸念もあり、今後の動向に注意が必要です。
5.最後に揉めない相続とするためには、まずは遺留分を侵害しない遺言の作成が必要になります。
そのためには、相続税の試算をして遺留分相当額を事前に把握しておくことが大切です。2019年5月15日
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216号
奥様の預金は誰のもの?
~実際にあった事例検証~相続税の申告における預金残高が、生前の所得状況からみて大幅に少ないと、税務署は疑いの目を向けてくるようです。今回は、相続税の調査で実際に指摘された事例をご紹介します。
1.事例の概要被相続人A(夫)とその配偶者B(妻)は、会社は異なりますがいずれも取締役で、それぞれ役員報酬を得ていました。役員報酬の額は、AがBの約2倍であったこともあり、生活費はそのすべてをAが負担していました。そのため、B名義の預金口座に振り込まれたBの役員報酬は、ほとんど費消されていませんでした。このような状況でAに相続が発生しました。相続時のAの預金残高は約5,000万円、一方Bの預金残高は約2億円でした。相続税の申告は、Aの預金残高としてその5,000万円を計上しました。その後、税務調査があり、夫婦の預金残高を確認した調査官から次のような指摘を受けました。
・夫婦には、お互いを扶助する義務がある。
・民法では、夫婦の生活にかかる費用は、資産・収入など一切の事情を考慮して分担する必要があるとされているため(民法760条)、夫婦生活40年間の生活費約1億円のうち、2人の収入(AはBの2倍)に応じてその3分の1の3,300万円は、Bが負担すべき金額であった。
・従って、Aの相続財産にBに対する貸付金として3,300万円を追加して、修正申告をする必要がある。
確かに、2人の収入状況から考えると、Bの預金は多すぎる印象がありますが、はたして調査官の指摘内容に応じて、修正申告をする必要はあるのでしょうか?
2.財産は誰のもの上記1に記載のとおり、夫婦は、婚姻生活から生ずる費用を分担することになりますが、その割合は、夫婦の話し合いで決めることかと思われます。収入に応じて負担することも、また、一方がすべての生活費を負担することも可能なのではないでしょうか。
次に、夫婦それぞれの財産の考え方についてですが、
(1)夫が婚姻前から所有している財産
(2)夫が婚姻中に夫の名前で取得した財産(給料や親から相続した財産など)
これらは、夫の特有財産(夫が単独で所有する財産)となります(民法762条)。
先の事例で言いますと、A、Bそれぞれが得た役員報酬は、それぞれの特有財産となります。
3.離婚する場合の考え方夫婦が離婚する場合は、一方が、相手方に対して財産の分与を請求することができます。これを財産分与といいます。この財産分与は、
(1)婚姻中に夫婦が協力して蓄積した財産の清算
(2)離婚後に、生活に困窮する配偶者に対する扶養料
という性格があります。このことから、もしAとBが離婚をするのであれば、AはBに対し、預金残高の2億円の一定割合を請求できるのではないでしょうか。
4.修正申告は必要なのか夫婦の生活費は、先にご説明した通り、夫婦の話し合いによって負担すべきものです。例えBに収入があっても、Aがすべての生活費を負担すること自体、何ら問題はありません。Bの預金残高は、役員報酬として会社からBの口座に振り込まれた金額の積み重ねであり、正しくBの特有財産です。従って、Aの相続税の申告において、Bの預金残高の一部をAの財産と捉えて修正申告をする必要はないと考えます。
なお、離婚をする場合には、上記3に記載の通り、A、Bそれぞれの特有財産は、夫婦が協力して築いた財産として、AはBに財産分与を請求できます。一見、相続の場合と矛盾が生じるように感じられます。しかし、例えば妻が専業主婦で所得がない場合、夫の財産をその特有財産とすると、家事や育児により収入がない妻には、自己の特有財産がないという不公平が生じます。離婚の場合は、夫の財産を妻に分与することで、この不公平を解消します。相続の場合でも、配偶者の相続権として、夫の特有財産の2分の1を妻は取得できます。
先ほどの事例では、Bが先に亡くなれば、AはBの預金を相続で取得することができることになります。
5.相続税申告は特有財産で!今回のケースは、夫婦の所得状況と預金残高が大きくバランスを欠いていたため問題となりました。それぞれの特有財産であることを立証するためには、例えば預金は会社(第三者)から振り込まれたお給料という、紐付きの資産であることが必要です。途中で混ざり合ってしまうと、特有財産であると立証ができなくなってしまいます。上記の事例を踏まえ、ご相続対策として、一度、財産の見直しをされてみてはいかがでしょうか。
2019年4月15日
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215号
所得税には固有の考え方があります
~所得税の計算は間違っていませんか?~例年2月16日から3月15日は所得税の確定申告時期です。所得税の申告は年に1度だけのため、細かな取扱いについてはどうしても忘れがちになってしまいます。そうでなくとも、所得税の計算ルールには法人税とは異なった固有の取扱いがいくつもあります。間違った計算をしていないかどうか確認をしてみましょう。
1.損害保険金などは非課税所得税に固有の考え方の1つ目は、非課税所得というものがいくつも存在することです。宝くじが非課税なのは有名ですが、実務的によくあるのは損害保険金や賠償金、慰謝料などが非課税になるという取扱いです。
入院に伴って保険金を受領するケースや、事故で賠償金を取得するケースなどはとても分かり易いため、非課税だと認識しやすいでしょう。
よくある間違いは、賃貸不動産が損害を受けたことにより損害保険会社から保険金が下りた時です。賃貸不動産に関して補填された保険金であるため、不動産収入に計上したくなるのではないでしょうか。
ところが、所得税ではたとえ賃貸不動産に係るものであったとしても、損害保険金は非課税になります。したがって、無用に収入計上をしないようにしましょう。
なお、このような場合には、損害を復旧するための修繕費を支払うことになるでしょうから、実務的な取扱いは次のようになります。
① 損害保険金>修繕費 ⇒ 修繕費を超える部分は非課税
② 損害保険金<修繕費 ⇒ 損害保険金を超える部分のみ修繕費(経費)
いずれにしても、損害保険金によって所得が増加することはありません。
2.収入の日割り賃貸不動産の収入計上時期はご存知でしょうか。貸付期間に応じた収入計上も一定の場合には認められていますが、原則は契約・慣習に定められた日において計上するという取扱いになります。
貸地などの地代は当月分当月支払いのケースが多いと思われます。このような契約のときに、月の半ばで相続が開始したときの地代はどのように計上すべきなのでしょうか。半月分の地代を未収計上しても差し支えはないですが、あくまで契約・慣習による支払日が相続後であれば強いて半月分の収入を計上する必要はありません。
処理の仕方により、相続開始年の被相続人と相続人の所得が変わってきますので、有利不利の判断をすべきことになるでしょう。
ちなみに、相続税では日割計算する考え方はありません。契約・慣習による地代、家賃等の収受日前に相続が開始すれば、その月に収受すべき賃料は全額計上しません。日割計算した未収家賃を計上するなどして相続財産を増やすことのないようにして下さい。
3.租税公課の計上は正しいですか租税公課の経費計上にもルールがあります。代表的なものとして固定資産税の計上時期は、次の①から③のいずれかで処理することになります。
① 各納期の開始日に計上
② 実際に納付した日に計上
③ 賦課された年に全額を計上
このように固定資産税を日割計算して計上する方法は存在しません。よくある間違いとしては、相続が開始したため、その年の固定資産税を月割りして被相続人と相続人に分けて計上することです。税務署に指摘されるか否かは別としてそのような計算方法はありません。
また、事業用の不動産などを売却したときは要注意です。なぜなら、売却年の固定資産税は全額経費計上できるからです。売却月までの固定資産税だけが経費だと勘違いする方が多く、月割計上しているのではないでしょうか。経費計上漏れがないようにしましょう。
4.減価償却費の計上は漏れていませんか相続によって引き継いだ資産に係る減価償却費の計算も間違いが多い項目です。まずは承継方法ですが、被相続人の取得価額、耐用年数、未償却残高を引き継ぎますが、償却方法は引き継ぎません。中古資産の取得でもないですから、そのような計算方法もありません。
また、相続年において一番間違えやすいのが償却期間です。1ヶ月未満は1ヶ月として計算しますから相続があったときの減価償却の期間は次のようになります。
〇相続開始日が3月15日の場合
・被相続人は1月~3月までの3ヶ月償却可能
・相続人は3月~12月までの10ヶ月償却可能
したがって、相続年は合算すると13ヶ月間の減価償却を行います。年間で考えると1ヶ月多いからといって12ヶ月に調整するようなことはできません。
5.適正な申告に向けて所得税法は個人の申告についての法律です。したがって、上記以外にも法人税とは異なる所得税固有の細かなルールがいくつも存在します。会計基準に従って期間計算を正確に行う法人とは考え方そのものが大きく異なるのです。所得税にも強いATOは、適正な所得税申告を通してお客様のサポートを行います。
2019年3月15日
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214号
平成31年度税制改正
平成31年度の税制改正大綱が平成30年12月14日に公表されました。今回はこの税制改正の主要項目のうち、特に注目すべき点を取り上げました。
1.住宅ローン控除の特例の創設消費税率引上げ前後における住宅に係る駆け込み、反動減対策として措置されます。
消費税率10%適用の住宅の取得等について、住宅ローン控除の控除期間が3年延長されます。
(現行10年間⇒13年間)控除額は1年目~10年目までは現行と同じで11年目以降は「建物購入価格の2/3%」と「住宅ローン年末残高の1%」のいずれか少ない金額となります。
適用時期:2019年10月1日から2020年12月31日までに居住の用に供した場合に適用
2.空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例の拡充被相続人が一定の対象家屋※から転居し、相続直前に老人ホーム等に入所していた場合でも下記の要件に該当すれば3,000万円特別控除の適用が可能となります。
①被相続人が要介護認定等を受けていたこと
②入所後も引き続き対象家屋が使用されていたこと
③入所時から譲渡時まで、対象家屋が他の者の居住、貸付等の用に供されていなかったこと
※対象家屋とは被相続人が相続の直前まで一人で居住の用に供していた家屋(昭和56年5月以前の建築)をいう。
適用時期:2019年4月1日から2023年12月31日までの譲渡について適用
3.個人事業者の事業用資産に係る相続税等の納税猶予制度の創設法人の事業承継税制をベースとして個人事業者についても納税猶予制度が創設されます。個人事業者の特定事業用資産について、その課税価格に対応する税額が納税猶予となります。相続時・生前贈与時のいずれにも適用可能です。なお、特定事業用資産とは被相続人の事業用(不動産貸付業を除く)の土地(面積400㎡まで)、建物(床面積800㎡まで)及び建物以外の一定の減価償却資産をいいます。
ポイントは以下のとおりです。
①承継計画を作成して確認を受ける仕組みとし、承継後は事業・資産保有の継続が定期的に確認
される。
②担保を提供し、猶予取消しの場合は猶予税額及び利子税を納付する。
③被相続人は相続開始前において、相続人は相続開始後において、それぞれ青色申告の承認を受
けている。
④既存の事業用の小規模宅地等の特例との選択適用となる。
適用時期:2019年1月1日から2028年12月31日までの間に相続等により取得する財産について適用
4.特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例の見直し被相続人の事業用の宅地(400㎡まで)について、相続税の課税価格を80%減額する特例の見直しです。
・相続開始前3年以内に事業供用された宅地等については、本特例の対象外となります。
・ただし、その宅地の上で事業供用されている減価償却資産の価額が、その宅地の相続時の価額の 15%以上であれば、適用対象となります(対象となる事業用宅地の基準の明確化)。平成30年度に改正された貸付事業用の小規模宅地等の特例にならい、制度の乱用阻止のため措置されます。
適用時期:2019年4月1日以後に相続等により取得する財産に係る相続税について適用(ただし、同日前から事業の用に供されている宅地等については適用しない)
5.相続法改正に伴う措置(相続税)(1)配偶者居住権の評価
民法改正により規定された配偶者居住権とは、相続発生時に、被相続人所有の建物に居住していた配偶者がその建物を無償で使用する権利をいいます。相続税においてはこの配偶者居住権の評価方法が次のように定められます。
①配偶者居住権(建物の利用)の評価
建物の相続税評価額-下記②
②配偶者居住権が設定された建物の評価
建物の相続税評価額×(残存耐用年数(注1)-存続年数(注2))/ 残存耐用年数
× 存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
③配偶者居住権(敷地の利用)の評価
土地等の相続税評価額-下記④
④上記②の敷地の評価
土地等の相続税評価額×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
(注1)残存耐用年数:建物の法定耐用年数の1.5倍の年数から築後経過年数を控除した年数
(注2)存続年数:終身の場合には平均余命年数、一定期間の定めの場合にはその期間(平均余命年数を上限)
※配偶者居住権に関する改正民法の施行は2020年4月1日から
(2)特別寄与料に対する課税
民法改正により相続人以外の親族が、被相続人の療養看護等を行った場合、一定要件のもと相続人に対して金銭支払(特別寄与料)を請求することができることとなります。
特別寄与者が支払を受ける特別寄与料は、被相続人から遺贈により取得したものとみなして相続税を課税します。また、相続人が支払うべき特別寄与料は、その相続人の課税価格から控除します。
※特別寄与料に関する改正民法の施行は2019年7月1日から
6.その他の主な改正項目その他の改正案のうち主要な項目は次表のとおりです。
2019年2月20日
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213号
相続分野における民法改正
~約40年ぶりの改正!どうなる遺言制度~2018年7月6日、遺産相続などに関する民法改正案が参議院本会議において可決・成立(7月13日公布)され、2020年7月10日(自筆証書遺言の方式緩和(下記5)については2019年1月13日)から施行されます。相続分野の見直しは40年ぶり!のことです。今回の改正は高齢化社会への対応を目的としたものですが、どのような変更が行われるのでしょうか。改正相続法等の中から、今回は『自筆証書遺言制度の見直し』について考えてみました。
1.現状の遺言制度民法上遺言制度には、遺言者自身が作成する自筆証書遺言、遺言者からの遺言の趣旨を聞き取り公証人が作成する公正証書遺言、遺言者自身が作成した遺言書を封印したものを公証人が遺言者自身が書いた遺言であることを証明する秘密証書遺言の3種類の遺言方法があります。
公正証書遺言の割合が最も高く、自筆証書遺言は少数となっており、秘密証書遺言はほとんど使われておりません。自筆証書遺言のメリットは費用がかからない事、どこでも作成可能といった事が挙げられますが、その反面デメリットとして、紛失等の恐れがあり、形式面での不備等が生じやすかった為、今回の改正ではそのデメリットへの対応も含めいくつかの項目で改正が行われました。
2.法務局での自筆遺言証書の保管被相続人が作成した自筆証書遺言は自宅で保管するか、弁護士に預かってもらうしかできず、特に自宅での保管は遺言書の紛失・偽造の可能性があり、トラブルに発展する恐れがありました。改正後は、作成した自筆証書遺言を法務局で保管してもらうことができます。これにより、紛失や偽造のリスクは少なくなるでしょう。
なお、手続きとしては、遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局に対して保管の申請をすることになります。
3.自筆遺言証書の検認不要自筆証書遺言が見つかった場合、家庭裁判所で検認という手続きが必要でした。封印のある遺言書は家庭裁判所で相続人の立会いの上開封しなければなりません。改正後は、検認手続きが不要となるため、相続手続きの時間短縮につながることでしょう。
なお、検認が不要となるのは、上記2の保管制度を利用した遺言書に限られます。自己管理の遺言は、従前通り、検認手続きが必要となりますからご注意ください。
4.遺言書情報証明書被相続人が遺言書保管制度を利用している場合、相続人は法務局で遺言書原本の閲覧ができます。遺言書原本を受領することはできませんが、遺言書の画像情報を用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付を受けることができます。
この証明書発行制度は、法務局に新設される自筆証書検索システムにより可能になるものです。
5.財産目録のパソコンでの作成これまで自筆証書遺言は、添付する目録も含め、全文を自書して作成する必要がありました。その負担を軽減するため、遺言書に添付する相続財産の目録については、パソコンで作成してもよいことになりました。
また、不動産物件目録は登記事項証明情報、金融資産は通帳のコピーでも良い事など、これまでとは作成方法についても大幅な改正となりました。
6.まとめ今回の改正により、これまでの自筆証書遺言の問題点のいくつかは解消され、従来よりも活用しやすくなると期待されます。ただし、法務局は遺言の内容について遺言保管に必用な範囲での確認しかしてくれません。
相続を争族にしないためにも、作成にあたっては、相続人の遺留分を侵害していないか等の内容面の慎重な検討が重要です。
遺言書の作成をご自身で全て完結されたいと思われている方、又は専門家に助言を求められる方がいらっしゃいます。遺言制度が、それぞれの人にとって、被相続人の残された人に対する意思や想いを確実に伝えられるように活用される事を期待します。2019年1月15日
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212号
個人所得の区分あれこれ
~所得区分が争われた事例と分かりにくい所得区分~ご承知のとおり、所得税法では、個人所得を10種類に区分し、それぞれの所得金額を合計して課税標準とする総合所得税制を基本としています。
また、それぞれの所得について、異なる算出方法が定められていますが、これは、所得の担税力(勤労性所得か資産性所得か)や累進税率緩和の必要性(反復・継続的所得か退職金や不動産等譲渡による一時的所得か)の違いによるとされています。
納税する側にとって、所得区分によっては税負担が過重になる場合もあることから、所得区分について度々争いになることがあります。これは、現行の所得区分が、近年の雇用形態や所得の稼得形態の著しい多様化に対応できていないことが一因になっているのかもしれません。
また、平成16年に日本税理士会連合会から出された「所得税制における所得区分と課税方法のあり方について」には、「現行所得税法は10種類の所得区分の規定を置いているが、その区分の基準や考え方は必ずしも一様ではなく、明確な指標はない。」とも記載されており、所得区分について、新たに検討する余地があるのかもしれません。
1.所得区分が争われた事例⑴ 競馬の払戻金
競馬の払戻金は、原則、一時所得(所得税基本通達34‐1⑵)になりますが、一時所得か雑所得のいずれに該当するか争われた事例があります。
最高裁は、当事例の払戻金は雑所得に該当すると判断しましたが、これは、馬券購入の期間や回数、その他の状況等を総合勘案して、営利を目的とする継続的行為に当たるという考えに基づき判断したものです。
一時所得であれば、ハズレ馬券を必要経費とすることはできませんが、雑所得であれば必要経費として控除することができますので、納税額は少なくなります。
さらに、競馬だけで生計を立てている「いわゆるプロ」は、雑所得ではなく事業所得になり欠損金の繰越や専従者給与も認められるかもしれません。いずれにせよ、一般の競馬愛好家の皆さんは、一時所得となり、ハズレ馬券を必要経費とすることはできませんので、お気を付け下さい。⑵ ストック・オプションの権利行使益
ストック・オプション制度とは、会社がその役員等に対して、一定の期間内に、一定の価額(権利行使価額)で、一定の株数の自社株(又は親会社・子会社株)を購入できる権利を与える制度で、インセンティブ報酬制度の一つです。
役員や従業員が受けるストック・オプションの権利行使益は、給与所得になります(所得税基本通達23~35共-6)が、一時所得か給与所得のいずれに該当するか争われた事例があります。
最高裁は、ストック・オプションの権利行使益は、給与所得に該当すると判断しましたが、これは、ストック・オプションの権利行使益が、会社との雇用契約等に基づき、会社の指揮命令に服して提供した労務の対価として会社から給付されたかどうかによって判断すべきという考えに基づくものです。
実は、課税当局が、以前、外国の親会社から付与されたストック・オプションの権利行使益を一時所得に該当すると指導していた経緯があり、それにもかかわらず、途中から給与所得に該当すると見解を変更したわけですから、一時所得として申告した方から反発を買い更正処分の取消訴訟が複数提起されたようです。
しかし、裁判所は、給与所得として申告した者との間に著しい不公平が生じるとして課税当局の遡及課税を容認しています。
2.分かりにくい所得区分⑴ 自衛官若年定年退職者給付金
同一人に支払う給付金でも、支払うタイミングによって所得区分が異なります。
「若年定年退職者給付金」とは、防衛省の職員の給与等に関する法律第27条の3、27条の7に基づき2回に分けて支給されるものですが、その制度創設の趣旨が若年定年制から生じる不利益を補うことにあることや給付金の経済的実質を踏まえ、1回目の給付金は、退職を基因とする一時払いの給与に該当するので退職所得。2回目の給付金は、2年後に支払われる一時金ですので一時所得に該当するとされています。
1回目に支給される給付金 ⇒ 退職所得
2回目に支給される給付金 ⇒ 一時所得⑵ 従業員持株会から受ける利益分配金
同じ利益分配金でも、支払先の組織区分によって所得区分が異なります。
・持株会が民法上の組合 ⇒ 配当所得
会員を受益者として信託されていると見られ、持ち分に応じて配当されるので、配当
所得になります。
・持株会が人格なき社団 ⇒ 雑所得
(所得税法基本通達35-1⑹)
・持株会が会社の一部 ⇒ 給与所得個人所得は、人々の生活に密接に関連しているので、その区分も人間臭くておもしろいと思いますが、皆さんは如何でしょうか。
2018年12月14日