1.はじめに
今も昔も、税金の負担を逃れたり、軽減しようとする工夫・努力?はあるようです。
飛鳥時代には、21歳から60歳の男性に60日の公共事業に服さなければならない税が課されていましたが、戸籍をごまかして(年齢を70歳で登録、性別を偽る、死んだことにする)労役を免れたり、室町時代には、家の間口の大きさに応じて課税されるので、玄関の間口を小さくして奥に長い家を建てたりと、先人もいろいろと苦労していたようです。さて、税金を安くする方法としてどのようなものがあるでしょうか。
2.節税・脱税等
(1) 節税
これは、合法的に税金を軽減する方法で、例えば、法人が減価償却費として損金算入できる限度額まで費用に計上する、個人の青色申告者が電子申告し65万円の青色申告特別控除を受けるなどが挙げられます。
(2) 脱税
これは、違法に税金の負担を逃れるもので、例えば、
・一部の売上(現金売上、夜間売上、単発売上等)を裏預金で管理し申告から除外する
・請求書・領収書等を偽造しあたかも外注費等を支払ったかの如く装い裏資金を作る
などが挙げられます。
査察は、上記のような脱税事件を令和元年度に116件告発し、脱税額は92億円(1件当り8千万円)に上っています。税をごまかそうとする事例は後を絶たないようです。
この場合、行政罰として重加算税が課され、さらに、刑事罰として10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処せられることになります。
(国税通則法68条、所得税法238条、法人税法159条)
(3) その他不正計算
・予算消化のため、年度末に販促用品等を大量に購入し、貯蔵品として計上しない
(貯蔵品除外)
・営業担当者が目標以上の受注を達成すると一部を翌期の実績に繰り延べる
(帳簿改ざん…翌期への繰延べ工事は当期着工済であり、発生原価の当期完成工事原価へ
の付け込みによる原価水増し)
などが挙げられます。
これらの場合は、脱税と違い税金の繰り延べに過ぎませんが、(2)と同様、仮装・隠ぺいの事実ありと認定されれば重加算税が課されることになります。
3.租税回避
これは、合法的に税金の負担を軽減・排除することを言いますが、税法が意図しない(不自然な)方法で行われる点で節税とは異なります。
そのため、容認すると税負担の公平性が損なわれると認められる場合は、法令の趣旨に従って取引が行われたものとして更正できる「租税回避の否認規定」が定められています(所得税法157条、法人税法132条等)。
・平成28年2月29日最高裁判決(ヤフー事件)
Y社は、多額の欠損金(約542億円)を有する子会社I社を合併しその欠損金を利用しY社の所得を圧縮しようと計画します。しかし、その欠損金を利用するためには、I社の特定役員(常務以上)が合併後Y社の特定役員に就任する必要があるので、Y社の代表者は一旦I社の副社長に就任し3か月後の合併と同時にY社の代表者に戻り、Y社は欠損金を控除し申告しました。
税務署は、欠損金控除は租税回避に当たるとして欠損金控除を否認する更正処分を行いました。
Y社は不服として上告しましたが、最高裁は税法が想定しているI社の特定役員とは「I社の経営の中枢を継続的、実質的に担ってきた特定役員」であるとして国勝訴としました。高校の時、生物の試験で「細胞を発見したのは誰か」との問いに「俺じゃない」と書いてゲンコツをもらった友人がいました。確かに間違いではありませんが、問いが求めている解答ではないですよね。
これに似ているでしょうか。
4.国際的租税回避スキーム
これは、各国の税制や租税条約の違いを巧みに利用し税負担を免れるもので、 金融や税の専門家が関与し匿名組合契約などの事業体や金融手法を駆使した複雑なスキームのことを言います。
例えば、
(a) 米国法人が日本の事業者に投資する際、オランダ子会社を介在させ匿名組合契約を締結することにより利益分配金(約45億円)への課税を免れたスキーム
(b)Googleがアイルランド(タックスヘイブン)の子会社2社(ペーパーカンパニーと事業会社)の取引にオランダ子会社を介在させる節税スキーム
がよく知られています。
特に、Googleは、(b)のスキームで過去3年間に31億ドルの法人税の支払いを免れたようです。
これに対し、(a)は、日本とオランダとの租税条約を平成23年に改正し、(b)は、アイルランドの法人税の優遇措置(ペーパーカンパニーが非課税)を令和2年で廃止するなど租税回避の封じ込めに努めていますが、今後も世界の税務当局を悩ませることになりそうです。