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え〜っと通信

258号

2022年10月14日

野口 晋吾

建物を買換資産とした場合の買換特例の税負担について

 不動産の売却資金で別の不動産の購入や建築をする場合に、買換特例の適用を受けることを検討されている方もおられると思います。この特例は、売却時の譲渡税は軽減できますが、適用後の所得税負担が増加する場合があります。そこで、建物を買換資産として買換特例の適用を受ける場合の税負担について、事例を用いて説明したいと思います。


1.買換特例について

 個人の方が事業用の不動産を売却して、別の事業用の不動産を取得した場合に、一定の要件を満たすと事業用資産の買換特例の適用を受けることができます。
 本来、売却により譲渡益が生じれば、その譲渡益に応じた譲渡税を負担することになります。しかし、この特例を適用すると、最大で譲渡益の80%が軽減でき、譲渡税は、本来の税額の20%相当額で済むことになります。
 一方、この特例を適用すると、新たに取得した事業用資産の税務上の取得価額は、実際の購入金額ではなく、売却資産の帳簿価額を基礎として一定の調整を加えた金額となります。そのため、その買換資産を将来売却した際に、繰り延べられた譲渡益(80%)部分も含めて課税されることになります。すなわち、この特例は、課税の減免ではなく、課税の繰り延べに過ぎないのです。
 それに加え、買換資産が賃貸建物等であれば、毎年、減価償却費として経費にできる金額が減少することで所得が増加し、所得税等の負担が増加する点に注意が必要です。


2.建物を買換資産とした場合の税負担の状況

 上記1の記載内容について、事例により検証します。なお、税率については、復興特別所得税分を省略しています。
(1)買換えの状況
 簿価3,000万円の事業用の土地建物(所有期間10年超)を15,000万円で売却し、譲渡益が12,000万円生じました。また、売却代金(15,000万円)と同額の賃貸建物(買換資産)を購入したと仮定します。
(2)譲渡税(所得税と住民税の合計)
 譲渡税は、譲渡益に長期譲渡の税率(20%)を乗じて算定します。買換特例を適用すると、譲渡益12,000万円の80%が繰り延べられ、税務上の譲渡益は2,400万円(20%相当)として譲渡税を計算します。

以上のとおり、買換特例を適用すると、譲渡税は1,920万円(2,400万円-480万円)減少します。
(3)賃貸建物(買換資産)の減価償却費
 賃貸建物は、鉄骨造(耐用年数38年、償却率0.027)とします。減価償却費は、取得価額に償却率を乗じて算定します。買換特例を適用すると、実際の購入金額ではなく、譲渡資産の簿価3,000万円の80%相当額に売却金額15,000万円の20%相当額を加えた5,400万円が税務上の取得価額とされます。

 以上のとおり、買換特例を適用すると、毎年の減価償却費が259.2万円(405万円-145.8万円)減少し、不動産所得の金額が、その分増加することになります。


3.譲渡税の減少と不動産所得に係る税額の増額

 長期譲渡に係る譲渡税の税率は、前記2(2)のとおり20%の固定税率です。一方、不動産所得など総合して課税される所得に適用される所得税と住民税の合計税率は15%~55%となり、高い部分の所得には高い税率が適用されます。そのため、不動産所得などに適用される所得税等の最高税率が、20%(譲渡税の税率)より高い方は、買換後、一定年数を経過すると、所得税等の増加額が譲渡税の減少額を上回る結果になります。そこで、譲渡税の減少額を上回るまでに要する年数について、所得税等の税率が33%(課税所得695~900万円)の場合と、50%(同1,800~4,000万円)の場合で検証すると、次表のとおり、前者は約22年、後者は約15年となります。

(注)①の増加所得…上記2(3)の減価償却費(経費)の減少額
④の1,920万円…上記2(2)の譲渡税の減少額

なお、賃貸建物を耐用年数の38年間所有し続けていたとすると、所得税等の税率が33%の場合は3,250.52万円(85.54万円×38年)、50%の場合は4,924.8万円(129.6万円×38年)税負担が増加するため、譲渡税の減少額を大きく上回ることになります。


4.(参考)法人の場合

 法人の場合も、買換特例がありますが、法人税等の実効税率は最大で34%程です。所得税等の税率は最大で55%のため、個人の場合より、大きな税率差が生じることはありません。


5.終わりに

 建物を買換資産とした場合には、減価償却費の差額から増加する所得金額がわかりますので、安易に買換特例を適用するのではなく、ご自身の所得税等の税率を踏まえて、十分検討をしましょう。

※執筆時点の法令に基づいております