賃貸マンション事業と借入金
~元本返済額と減価償却費の関係~
賃貸建物の購入資金として、金融機関からの借入れを活用する方は多いと思います。初めは順調に推移しているように思われた賃貸経営も15年目くらいからキャッシュ・フロー(資金収支)の悪化が問題に。建築資金の大部分を借入金で賄っているケースで多く見受けられます。
今回は、借入金を活用する賃貸マンション経営における資金面での注意点についてのお話です。
1.借入金による賃貸経営
父が駐車場にしている土地ですが、賃貸マンションの建築を考えています。3億円かかりますけど・・・。相続税対策にもなるようですし・・・。
建築資金はどうされますか?
全額借入れです。預金は相続税の納税資金としてとっておきます。年利1%で返済期間は30年。賃貸マンションは私が相続し、賃貸事業を続けるつもりです。
年間賃料想定額の建築代金に対する割合を利回りといいます。全額借入れとなると、利回りは最低10%確保できないと資金収支が苦しくなりますよ。
10%は無理ですね。建築費用も高騰しているし。資金収支とは、簡単に言えば損益のことですか?
2.損益と資金収支の違い
収入から経費を引いたものが損益。一方、資金収支はお金の出入りです。例えば、減価償却費は経費ですけどお金は出ていかないので、損益と資金収支は異なります。借入金の返済はどうでしょうか?
利息は経費だけど、元本返済は経費でないですね。
そうですね。損益と資金収支の差異においては、減価償却費と借入金の返済額がポイントになります。
イメージが沸かないので具体例でお願いします。
借入額3億円、返済期間30年、年利1%の元利均等の年1回返済としますと、1年目、
16年目、30年目の返済額の内訳と残元本は次のとおりになります。
元利均等返済なので、年々元本返済額が増加し、利息支払額は減少しますね。返済額自体は変わらなくても、経費は減少していくということですね。
では次に、減価償却についてみてみましょう。
3.建物附属設備の償却は15年で終了
建物の購入額は一括で経費になりません。税務上の耐用年数に応じて経費化されます。
ところで、建物本体と建物附属設備の金額は分かりますか?
建物が約2.1億円、電気設備、衛生設備などの建物附属設備は約9千万円です。
耐用年数は建物が47年、建物附属設備は15年。定額法での償却ですから、経過年数に応じた1年当たりの減価償却費は次のとおりになります。
16年目になると減価償却費が1,065万円から462万円へと603万円も減少しています。
ということは課税所得が603万円増加し、納税額も大幅に増加することになりますね。
元利均等返済の場合、年を追うごとに元本返済額が増加し、経費になる利息は減少していきますから、更に納税額が増加し、資金収支が悪化します。
納税額の増加が資金収支悪化の原因ですね。
経費にならない元本返済額が、経費になる減価償却費を上回ると、例えば手元資金が500しかなくても1,000に対して課税されるようになってしまいます。
4.大規模修繕や設備の交換は15年経過後に始まる
賃貸経営は、15年目頃までは減価償却費も多く、大きな修繕もほとんどないため資金面で順調です。
そういえば15年経過後に屋上の防水工事などの大規模修繕を実施するような話もしていました。それまでにその資金を確保しておく必要がありますね。
それに加え、15年経過すると、給湯機器、キッチン、ユニットバスの交換も徐々に始まっていくことも考慮しておく必要がありますね。
3億円の全額借入れは見直します。借入額はいくらくらいであれば資金的に乗り切れるでしょうか。
それでは、大規模修繕なども見込んだうえでシミュレーションをしてみましょう。
5.土地は減価償却による経費化ができない
表面利回り5%程度の中古マンション投資の広告を目にします。預貯金では運用効果が見込まれない今日において、中古マンション投資を検討される方もおられることでしょう。余裕資金が十分ある場合は別として、借入れで購入するときは注意が必要です。今回の事例は、建物代金の借入れでしたが、土地代金も借り入れるとなると更に資金収支が悪化します。土地代金は減価償却による経費化ができないからです。賃貸マンション投資は高い買い物です。購入時に示される資金収支のシミュレーションは、大規模修繕やメンテナンス工事が的確に見積もられたものかどうか十分な確認が必要です。